ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第44帖 竹河 / 第7場面

中将の君との贈答

あらすじ・人物・読み方

少将は藤侍従の曹司で薫の文を見て嘆き、語らいの相手の中将の君と、碁の勝負に事寄せて歌を交わす。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

甲斐のないことも言おうとして、いつもの、侍従〔藤侍従〕の曹司に来てみると、〔藤侍従は〕源侍従〔薫〕の手紙を見ていらした。〔藤侍従が〕引き隠すのを、そうらしいと見て、〔少将は〕奪い取った。「何かわけありの顔だな」と思って、〔藤侍従も〕ひどくは隠さない。〔手紙は〕とりとめもなく、ただ世を恨めしげにほのめかしてあった。

つれなく過ぎてゆく月日を数えながら、恨めしく思われる春の暮れです。

「人はこのように、のんびりと様子よく妬ましげであるらしいのに、私のひどく人笑いになるほどの焦がれる思いを、一方では見慣れて、侮り始められている」などと思うのも、胸が痛いので、特に何も言えず、いつも語り合う中将の御許の曹司の方へ行くのも、いつものように、甲斐はないだろうと、嘆いてばかりいる。

侍従の君〔藤侍従〕は、「この返事をしよう」と言って、御前へ参りなさるのを見ると、〔少将は〕たいそう腹立たしく心が安まらず、若い気持ちでは、ひたすら〔妬ましく〕思われるのだった。

〔少将が〕あきれるほど恨み嘆くので、この前申し〔中将の君〕も、あまり冗談にもしにくく、気の毒に思って、返事もろくにしない。あの御碁の証人となった夕暮れのことも言い出して、「あれほどの夢をせめて、もう一度見たいものだ。ああ、何を頼みに生きていたらよいのだろう。こうして申し上げることも、残り少なく思われるので、『つらいも哀れも』ということこそ、本当なのだ」

と、たいそう真剣になって言う。〔中将は〕「気の毒だと、言いようのないことです。あの〔尚侍が〕お慰めになるという御様子も、少しも嬉しいと思える気配がないので、本当に、あの夕暮れの証人になったために、いよいよこう折悪く募る心が加わったのでしょう」と、もっともなことに思って、「〔尚侍が〕お聞きになったら、いよいよ何とけしからぬ御心なのかと、お疎んじ申し上げなさるでしょう。心苦しいと思い申し上げてきた心も消えてしまいました。たいそう気がかりな御心です」と、〔中将が少将の〕向かい火を掻き立てると、

「いやいや、どうでもよい。今は命も限りの身なので、何も恐ろしくなくなってしまった。それにしても〔碁に〕お負けになったのは、たいそう気の毒でした。素直にお召し入れになればよかったのに。目配せを申し上げていたら、この上なくよかったでしょうに」などと言って、

いや、どうして。身分の足りない私に叶わないのは、人に負けまいとする心なのだなあ。

中将は、微笑んで、

無理なことです。強い相手による勝ち負けを、自分の心一つにどう任せられるでしょう。

と答えるのさえ、〔少将には〕つらかった。

哀れと思って手を緩めてください。生きるも死ぬもあなたにお任せする私の身であるならば。

泣いたり笑ったりして、語らいながら夜を明かす。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第44冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。