ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第45帖 橋姫 / 第10場面

秋の宇治行き

あらすじ・人物・読み方

秋の末、宮が阿闍梨の寺の堂に移って七日の念仏を勤める間、姫君たちは心細く過ごしていた。久しく参らないことを思い出した中将(薫)は、有明の月の夜更けに、供もなく身をやつして宇治へ向かう。霧に分け入る山路で露に濡れ、独り涙のもろさを詠む。

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現代語で読む

秋の末の頃、四季ごとに定めてなさる御念仏を、この川のほとりは、網代の波も、この頃はますます耳に騒がしく静かでないからと言って、あの阿闍梨の住む寺の堂にお移りになって、七日の間お勤めになる。姫君たちは、たいそう心細く、所在なさが募って物思いに耽っておられた頃、中将の君(薫)は、長らく参上していないことよと、お思い出し申し上げたままに、有明の月が、まだ夜深いうちに差し出る頃にお出かけになって、たいそう忍んで、御供に人などもなく、身をやつしておられた。

川のこちら側なので、舟なども煩わしくなく、お馬でおいでになった。進んで行くうちに、霧が塞がって、道も見えない繁みの中を分け進まれると、たいそう荒々しい風の勢いに、ほろほろと落ち乱れる木の葉の露が散りかかるのも、たいそう冷たく、並々でなくひどく濡れてしまわれた。このような歩行なども、めったに慣れておられない心地で、心細くも妙にお思いになられた。

山おろしに耐えられない木の葉の露よりも、わけもなく脆くこぼれる私の涙であることよ。山の民が驚くのも煩わしいと言って、随身の声も立てさせなさらない。

柴の垣根を分けて、あちこちの水の流れを踏み分ける馬の足音も、やはり忍んでと用意なさっていたのに、隠しようのない御匂いが、風に乗って、主を知らぬ香と驚く、寝覚めの家々があった。

近づくにつれて、何の琴とも聞き分けられない楽器の音が、たいそうものすごく聞こえる。「いつもこのように遊んでおられると聞くが、機会がなくて、宮の御琴の音の評判も、聞くことができないのだ。よい折だろう」と思いながら入っていかれると、琵琶の音の響きであった。「黄鐘調」に調律して、世の常の合奏だけれど、場所がらか、耳馴れない心地がして、掻き返す撥の音も、清らかで趣深い。箏の琴は、しみじみと優美な音で、絶え絶えに聞こえる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第45冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。