第47帖 総角 / 第12場面
導かれた夜と朝の贈答
あらすじ・人物・読み方
匂宮は弁に導かれて中の君の部屋に入る。夜明けに歌を交わし、名残を惜しんで帰京する。
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現代語で読む
宮は、〔薫に〕教え申し上げてあったとおりに、一夜の戸口に寄って、扇を鳴らしなさると、弁も参ってお導き申し上げる。以前にも馴れた道の案内で、面白いとお思いになりながら〔宮が中の君の部屋へ〕お入りになったことも、大君はご存じなく、「〔薫を〕うまく言いなして帰らせよう」と思っていらっしゃった。
〔大君は薫を〕面白くも気の毒にも思われて、心の内も知らなかった恨みを抱かれるのも、罪の逃れようのない心地がするようなので、
「宮が慕いなさるので、お断り申し上げられず、ここにいらっしゃいました。音も立てずに、紛れておいでになりました。あの出しゃばりな人が、〔宮と〕お話し申し上げたのでしょうか。中途半端に人の笑い者にもなりそうですよ」
と〔薫が〕おっしゃると、今少し思いもよらないことで、目も不思議なほど〔大君は〕不快になって、
「このように、あらゆる点で珍しかったお心のほども知らずに、言う甲斐もない心の幼さまでお見せ申し上げてしまった怠りのために、〔あなたは私を〕軽んじなさるのでしょう」
と、言いようもなく思っていらっしゃった。
「今は言っても甲斐がありません。道理は、繰り返し申し上げさせても余りがあれば、つねってでもひねってください。高貴な方に心をお寄せになるらしいのに、宿世などと言うらしいものは、まったく心のままにならないものだそうで、あちらのお気持ちは別だったのを、気の毒に思いますにつけても、叶わない身こそ、置き所なくつろうございます。
それでも、どうしようかとお思い弱りください。このお障子の固さばかりが、たいそう強いのも、本当に清らかなものと推し量り申し上げる人もいないでしょう。案内役とお誘いなさった方のお心にも、まさかこのように胸が塞がって、夜を明かそうとは、お思いになったでしょうか」
と言って、障子をも引き破りそうな様子なので、〔大君は〕言いようもなく不快だけれど、うまく言いなそうと思いを静めて、
「そのおっしゃる筋の、宿世と言うらしい方面は、目にも見えないことで、どうにもこうにも思い辿れません。知らない涙ばかりが霧のように塞がる心地がします。これはどうなさるのかと、夢のように呆れるばかりで、後世の例として言い出す人もあれば、昔物語などに、愚かしく作り出したものの喩えにこそ、なりそうな気がします。このようにお思い構えるお心のほども、どうであったかとどうして推し量りなさりましょうか。
それでも、たいそうこのように、大げさにつらく、あれこれ取り集めて惑わせなさいますな。心ならずも生き長らえれば、少し思いが落ち着いて申し上げましょう。気分もまったく暗くなるようで、たいそう苦しいので、ここで少し休みましょう。お許しください」
と、たいそう侘びなさると、さすがに道理をたいそうよくおっしゃるのが、心恥ずかしく愛らしく思われて、
「わが君、お心に従うことの類いがないからこそ、ここまで頑なになっております。言いようもなく憎く疎ましいものにお思いになるらしいので、申し上げる術がありません。ますます世に生きる望みも残らなそうに思えません」と言って、「それでは、隔てたままでも、申し上げさせましょう。ひたすらに、お捨てさせなさいますな」
と言って、お許し申し上げなさったので、〔薫は〕這い入って、さすがに、入り切ることもなさらないのを、たいそうしみじみと思って、
「これほどのお気配を慰めにして、夜を明かしましょう。決して、決して」
と申し上げて、少しもまどろまず、激しい水の音に目も覚めて、夜中の嵐に、山鳥のような心地がして、夜を明かしかねていらっしゃる。
例によって、明けてゆく気配に、鐘の声などが聞こえる。「よく眠って、出ていらっしゃる様子もないこと」と、心苦しく、〔大君が〕声を作りなさるのも、実に妙なことである。
案内をした私がかえって迷うはずの、心も進まない明け方の暗い道よ
「このような例が、世にあったでしょうか」
とおっしゃると、
あれこれと暗く過ごす心を思いやってください。人任せではない道に迷うならば
と、ほのかにおっしゃるのを、〔薫は〕たいそう物足りない心地がするので、
「どうしたことか、これほど隔たっているらしいのは、たいそう無理なことです」
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第47冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。