第47帖 総角 / 第11場面
匂宮の宇治行き
あらすじ・人物・読み方
九月二十八日、匂宮は人知れず宇治を訪れる。大君は障子越しにだけ対面し、思いがけず心を動かされる。
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現代語で読む
二十八日は彼岸の終わりで、吉日だったので、〔薫は〕人知れず心配りをして、たいそう忍んで〔匂宮を〕お連れ申し上げる。中宮などがお聞きになっては、このようなお出歩きをたいそうお止め申し上げなさるので、たいへん厄介なのだが、〔匂宮が〕切にお思いになっていることなので、何気なく取り扱うのも、無理なことである。
舟渡しなども場所が狭いので、大げさなお宿なども借りなさらず、その辺りにたいそう近い御荘園の人の家に、たいそう忍んで、宮をお下ろし申し上げなさって、〔薫もそこへ〕いらっしゃった。咎め申し上げるような人もいないけれど、宿直の人がわずかに出て歩くにも、様子を知られまいとするのであろう。
「例によって、中納言殿がいらっしゃっている」と言って、〔人々は〕準備に忙しくしている。姫君たちは少し厄介に聞いていらっしゃるが、「〔薫の心の〕移る相手は別の方に香りを残してきたのだから」と、大君はお思いになる。中の君は、「〔薫の〕思う相手は別であるようだったのだから、いくら何でも」と思いながらも、気詰まりだった後は、以前のように姉の大君をお思い申し上げることもなく、警戒していらっしゃる。
あれこれとお手紙だけが行き交って、どうなることかと、人々も気をもんでいる。
宮を、お馬で、暗さに紛れてお出ましさせなさって、弁を呼び出して、
「こちらに、ただ一言申し上げさせていただきたいことがございますのに、〔大君が私を〕よそにお思いになる様子を拝見して以来、たいそう恥ずかしいのですが、引き籠もったままでは済みそうもないので、今しばらく夜を更かして、以前の様子に〔大君を〕お導きくださいませんか」
などと、〔薫が〕隔てなくお話しなさると、〔弁は〕「どちらの姫君に対しても同じことでしょう」などと思って〔大君のもとへ〕参った。
「そうです」と〔弁が大君に〕申し上げると、「やはり、〔薫の心は中の君へ〕移ったのだ」と、〔大君は〕うれしくて心を落ち着かせ、〔薫が〕お入りになるはずの道ではない廂の障子を、たいそうきちんと閉めて、対面なさった。
「一言申し上げさせていただきたいのに、また人が聞くほどの騒ぎになるのは妙なことでしょうから、少し開けさせてください。たいそう心細いのです」
と申し上げさせなさるけれど、
「たいそうよく聞こえるはずです」
と言って、〔大君は障子を〕開けなさらない。「今は〔中の君へ〕と心が移ろうとするのを、ただでは済まないと言おうというのか。何を言う、例のない対面でもなく、憎らしく返事をせず、夜も更かすまい」などと〔大君が〕思って、これほどまで出ていらっしゃったところ、〔薫は〕障子の内側からお袖を捉えて引き寄せて、たいそう恨むので、「たいそう困ったことだ。どうして聞き入れてしまったのか」と、〔大君は〕悔しく厄介だけれど、「うまく言いなして出て行かせよう」とお思いになって、他人と思い分けなさらないような様子で、言葉をかいつまみながらお話しなさる心遣いなど、たいそうしみじみとしている。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第47冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。