ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第47帖 総角 / 第15場面

匂宮の再訪と宇治橋の歌

あらすじ・人物・読み方

匂宮は再び宇治を訪れ、中の君と夜を過ごす。夜明けの宇治橋に寄せて、二人は歌を交わす。

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現代語で読む

あちら〔宇治〕では、中納言殿〔薫〕のことを仰々しく言いなさっていたのに、夜が更けるまで〔匂宮が〕いらっしゃらず、御手紙があるのを、「やはり」と胸がつぶれて〔中の君は〕いらっしゃると、夜中近くになって、荒々しい風の勢いに、とても艶やかに美しく匂っていらっしゃったのも、どうして軽くお思いになれようか。

当の人〔中の君〕も、少し心なびいて、お分かりになることがあるに違いない。とても美しく盛りだと見えて、着飾りなさった様子は、「これ以上の人はない」と思われる。

それほどよい人を多くご覧になる御目でさえ、悪くはないと、容貌をはじめ、多く近くで勝っていると思われなさるので、山里の老女たちは、まして口つきも憎らしく微笑みながら、

「このように惜しい御様子を、並大抵の身分の人が拝見なさったとしたら、どれほど口惜しいことだろう。思いどおりの御宿世だこと」

と申し上げながら、姫宮〔大君〕の御心を、妙にひねくれて振る舞いなさると、非難する口がひそひそと聞こえる。

盛りを過ぎた様子の人たちが、鮮やかな花の色々を、似つかわしくないのに差し縫いしながら、落ち着かず着飾った姿で、罪が許された人もないのを見渡しなさって、姫宮〔大君〕は、

「私もだんだん盛りを過ぎた身だわ。鏡を見れば、痩せて痩せてゆく。人それぞれ、この人たちも、私が悪いとは思わないだろう。後ろでは知らない顔で、額髪を引きかけながら、色取りした顔作りをよくして振る舞っているようだ。私自身では、まだとてもあの人ほどではない。目も鼻もまともだと思われるのは、気のせいだろうか」

と気がかりで、〔外を〕見出して臥しなさった。「恥ずかしいような人に見られることは、ますます傍らで辛く、あと一、二年もあれば、衰えが増すだろう。はかない身の様子を」と、御手つきの細やかでか弱く、痛々しいのを差し出しても、世の中を思い続けていらっしゃる。

宮〔匂宮〕は、得がたかった御暇の間を思いめぐらすと、「やはり、心安らかではいられないことだ」と、胸がふさがって思われなさった。大宮〔中宮〕が申し上げなさった様子などを語り申し上げて、

「思いながら途絶えることがあったら、どういうことかと思いなさいますな。夢でさえ疎かでいようはずもなく、これほど参上してくるはずもないのに。心のほどがどうかと疑って、思い乱れなさるのが心苦しさに、身を捨てて〔来て〕いるのです。いつもこのように迷い歩くことはできません。しかるべき形で、近く〔京へ〕お移し申し上げましょう」

と、とても深く申し上げなさるが、「途絶えがあるだろうと思われなさるのは、噂に聞いた御心のほどが知れるからでしょうか」と心に置かれて、自分の御身の上から、さまざま嘆かしくていらっしゃった。

明けてゆく頃の空に、妻戸を押し開けなさって、一緒に誘い出てご覧になると、霧が一面にかかった様子が、場所柄の情趣を多く添えて、例の、柴を積む舟がかすかに行き交う跡の白波を、「見慣れない住まいの様子だな」と、風流な御心には、趣深くお思いになる。

山の端の光がだんだん見える頃、女君の御容貌が本当に美しくて、「限りなく大切に据えた姫宮も、これほどでいらっしゃるに違いない。思いなしで、私のほう〔中の君〕がとても愛しいのだ。細やかな匂いなど、打ち解けて見たくて」、かえって〔心が騒ぐ〕気持ちがする。

水の音は懐かしくなく、宇治橋がとても古びて見渡されるなど、霧が晴れてゆくと、ますます荒々しい岸のあたりを、「このような所に、どうして年を過ごしなさるのだろう」などと、涙ぐみなさるのを、〔中の君は〕とても恥ずかしいとお聞きになる。

男の御様子が、限りなく艶やかで美しく、この世だけでなく〔来世まで〕契りを頼みに申し上げなさるので、「思い寄らなかったこととは思いながら、かえって、あの見慣れた中納言の恥ずかしさよりは」と思われなさる。

「あの人〔薫〕は思う方向が違って、とてもひどく澄んだ様子で、見えにくく恥ずかしそうだったのに、よそながら思い申し上げたことは、ましてこの上なく遠く、一行書き出しなさる御返事でさえ、慎ましく思われたのに、長く途絶えなさったら、心細いだろう」

と思い慣れてしまうのも、自分ながら情けないと、お分かりになる。

人々がひどく咳払いして促し申し上げると、京にいらっしゃる頃、みっともなくない頃にと、とても慌ただしく、心ならずも離れて過ごす夜を、繰り返しおっしゃる。

途絶えるはずもないのに、橋姫のように片袖を敷いて、夜中に袖を濡らすことでしょうか

出にくそうに、立ち返りながらためらいなさる。

途絶えまいという私の頼みによって、宇治橋のように遠い仲を待ち続けるべきなのでしょうか

言葉には出さないが、嘆かわしい御様子は、限りなく思われなさった。

若い人の御心に染み入るに違いなく、類の少なそうな明け方の御姿を見送って、名残に留まった御移り香なども、人知れずしみじみと感じられるのは、洗練された御心だなあ。今朝になって、物の見分けがつく頃に、人々が覗いて拝見する。

「中納言殿は、親しみやすく恥ずかしそうな様子が、おありだった。思いなしで、今一段と、この御様子は、とても格別に」

などと、褒め申し上げる。

道中、心苦しかった御様子を思い出しながら、立ち返りたいほどに、体裁が悪いほどにまでお思いになるが、世間の噂を忍んでお帰りになる間も、容易には〔思いを〕紛らわせなさることができない。

御手紙は明ける日ごとに、多く返ってくるようにお送りなさる。「疎かではないのだろうか」と思いながら、はっきりしない日数が積もるのを、「とても心尽くしに見まいと思ったものを、身に余って心苦しくもあるな」と、姫宮〔中の君〕はお嘆きになるが、ますますこの君〔匂宮〕が思い沈みなさるだろうから、素っ気なく振る舞って、「自分だけでも、やはりこのようなことを思い加えまい」と、ますます深くお思いになる。

中納言の君〔薫〕も、「待ち遠しくお思いだろう」と思いやって、自分の過ちがお気の毒で、宮に申し上げて気づかせながら、絶えず御様子をご覧になると、とてもひどく思い入れなさった様子なので、そうはいっても〔大丈夫だろう〕と、気が安らかだった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第47冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。