ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第47帖 総角 / 第16場面

九月の同行と三条宮の営み

あらすじ・人物・読み方

九月十日、薫は匂宮を誘って宇治へ行くが、大君は物越しにしか対面しない。京では中の君を迎える三条宮の営みが進む。

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現代語で読む

九月十日頃なので、野山の景色も思いやられるのに、時雨めいて掻き曇り、空の群雲が恐ろしそうな夕暮れ、宮はますます落ち着く心なく眺めなさって、どうしようかと、御心一つで出立しかねていらっしゃる。〔薫は〕折を推し量って、参上なさった。「古い山里はどうだろうか」と、〔宮を〕促し申し上げなさる。〔宮は〕とてもうれしいとお思いになって、一緒に誘いなさると、例のように、一つの御車でいらっしゃる。

〔薫は匂宮と〕分け入って行かれるにつれて、まして〔匂宮が宇治を〕眺めておられるだろうお気持ちが、いっそう推し量られなさる。道中も、ただこのことの心苦しさを〔二人は〕語り合い申し上げなさる。

黄昏時がたいそう心細げなところに、雨は冷やかに降りそそいで、秋が終わる気配がものすごい上に、しっとり濡れておられる〔お二人の〕香りは、世のものに似ず艶やかで、連れ立っておられるのを、山里の者どもは、どうして心惑わさずにいられようか。

女君たちは、日頃つぶやいていた〔不満も〕跡形なく、笑みをいっぱいに浮かべながら、お座席を整えたりなどする。京に、それぞれしかるべき所々へ散っていた娘たちや、姪にあたる人を、二、三人探し寄せて参らせた。長年〔宇治を〕侮り申し上げていた思慮の浅い人々は、珍しいお客様だと驚いた。

姫宮〔中の君〕も、この折を嬉しく思い申し上げなさるが、利口ぶった人〔薫〕が〔匂宮に〕お付き添いなさっているのが、恥ずかしくもあるに違いなく、なんとなく煩わしく思うけれど、〔匂宮の〕お心ばえがのどかで奥深くていらっしゃるのを、「なるほど、人はこのようではおられなかった」と〔以前の人と〕見比べなさると、得がたい方だと思い知らされる。

宮〔匂宮〕を、場所柄もあって、たいそう特別にもてなしいれ申し上げて、この君〔薫〕は、主人方として気安くもてなしなさるものの、まだ客としての仮の座の方へ〔宮を〕出し放っておられるので、〔宮は〕たいそうつらいとお思いなさっていた。〔宮が〕恨みなさるのもさすがに気の毒で、〔中の君は〕物を隔てて対面なさる。

「戯れるのも難しいことですね。このままで終わるのですか」と、たいそう恨み申し上げなさる。〔中の君は〕次第に事情をお分かりになったけれど、人の御上〔大君〕についても、ものをたいそう思い沈んでおられ、いっそうこうした方面を憂きものと思い切っておられて、

「やはり、一途に、どうしてこうまで打ち解けまいか。愛しいと思う人〔大君〕のお心も、必ずつらいと思いなさるに違いないことのようだ。私も人も見劣りせず、心が食い違わないで終わりにしたいものだ」

と思う心遣いを深くなさっていた。

〔中の君が薫に〕宮〔匂宮〕の御様子などもお尋ね申し上げなさると、〔薫は〕ほのめかしながら、「だからこそ」とお思いらしくおっしゃるので、気の毒で、〔宮が大君を〕お慕いなさっている御様子や、様子を探って歩かれる様子などを、語り申し上げなさる。

例よりは心を込めて語り合って、

「やはり、このように物思いが加わる間は、少し気持ちも静まってからお話し申し上げましょう」

とおっしゃる。人憎くよそよそしくは、〔中の君を〕遠ざけないものの、「障子の固めもたいそう堅い。無理に破ろうとすれば、つらくひどいことになるだろう」とお思いなさっていたので、「お思いなさる事情こそあるのだろう。軽々しく別の方向へなびきなさることは、決して、世にありはしない」と、心ののどかな人〔薫〕は、そうは言っても、たいそうよく思いを静めなさる。

「ただ、たいそう心もとなく、物を隔てているのが、胸の晴れない気持ちがするのです。以前の様子でお話し申し上げましょう」

と迫りなさるけれど、

「普段よりも自分の面影に恥じている頃なので、疎ましいとご覧なさるかもしれないのも、さすがにつらいのは、どうしたことでしょうか」

と、ほのかに微笑んでおられる気配などが、不思議に懐かしく思われる。

「このようなお心に油断させられ申し上げて、ついにどうなるべき身なのでしょうか」

と嘆きがちで、例の、遠山鳥〔のように隔てられたまま〕で夜が明けた。

宮〔匂宮〕は、まだ旅寝をなさっているのだろうともお思いなさらず、

「中納言が、主人方として心のどかでいる様子こそ羨ましいことだ」

とおっしゃると、女君〔中の君〕は、不思議なことと聞きなさる。

〔宮は〕どうしようもなくおられて、ほどなくお帰りなさるが、飽き足らず苦しいので、宮はものをたいそう思い悩んでおられた。〔宮の〕お心のうちをお分かりでないので、女方では、「またどうなるのだろう。人笑いになるのでは」と思い嘆きなさると、「なるほど、心を尽くして苦しそうなことだな」と見える。

京にも、隠れてお移りなさるべき所もさすがにない。六条の院には、左の大殿〔夕霧〕が、一方にはお住まいなさって、あれほどどうにかとお思いなさっていた六の君の御事をお思い寄せにもならないので、〔六の君は〕なんとなく恨めしいと思い申し上げなさるようである。好色らしい御様子だと、容赦なく非難申し上げなさって、内裏あたりにも訴え申し上げなさるようであるので、いよいよ、評判もなく〔中の君を〕引き出して据えなさろうとするのも、憚られることがたいそう多い。

世間並みにお思いなさる人の身分は、宮仕えの筋で、かえって気楽そうである。そのような並々にはお思われず、「もし世の中が変わって、帝や后のお思い置きなさったままにもおられれば、人より高い様子になさるだろう」など、ただ今は、たいそう華やかに、心にかかっておられるままに、もてなしなさる方法もなく苦しかった。

中納言〔薫〕は、三条の宮を造り終えて、「しかるべき様子で〔中の君を〕お移し申し上げよう」とお思う。

なるほど、ただ人は気楽なものだった。このようにたいそう心苦しい御様子ながら、安からず忍んでおられることから、お互いに思い悩んでおられるらしいのも、心苦しくて、「忍んでこのように通いなさる旨を、中宮などにも漏らしお聞かせ申し上げて、しばらくの御騒ぎは気の毒でも、女方のためには、咎もないだろう。たいそうこのように夜さえ明かしなさらない苦しそうなことよ。たいそうもてなして〔宮を〕おらせ申し上げたいものだ」

など思って、無理にも隠そうとしない。

「更衣など、てきぱきと誰が世話するだろう」などお思いになって、御帳の帷や壁代などを、三条の宮を造り終えて、〔中の君が〕お移りなさる準備に、させておかれたのを、「まず、しかるべき用があるのです」など、たいそう忍んで申し上げなさって、〔宇治へ〕差し上げなさる。さまざまの女房の装束を、御乳母などにおっしゃりながら、わざわざ作らせなさった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第47冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。