第47帖 総角 / 第22場面
夢と文の贈答
あらすじ・人物・読み方
姉妹は亡き宮の夢を語り合って泣く。匂宮の文と中の君の返歌が交わされ、神無月の晦日が過ぎる。
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現代語で読む
夕暮れの空の様子がとても物すごく時雨れて、木の下を吹き払う風の音などに、たとえようもなく、過ぎたことも行く先も思い続けられて、〔中の君に〕添って臥せていらっしゃる〔大君の〕ご様子は、上品で限りなく見える。
白いお着物に、髪は剃ることもなさらず月日が経ったけれど、乱れる筋もなく垂れて、このごろ少し青ざめていらっしゃるのがかえって、艶やかさがまさって、物思いに眺めていらっしゃるまなざしも、額のあたりも、見知るであろう人に見せたいほどである。
昼寝をしていた君〔中の君〕は、風がとても荒いのにはっと驚いて起き上がった。山吹色や薄色など華やかな色合いの〔着物〕に、お顔は特に染めて匂わせたかのように、とても面白く華やかで、少しも物思いするようすもなさらない。
「亡くなった宮〔八の宮〕が夢にお現れになったの。とても物思いしていらっしゃる様子で、このあたりに、ほのかにお姿を見せていらっしゃったの」
と〔中の君が〕語ると、〔大君は〕ますます悲しさが加わって、
「亡くなって後、どうにか夢にでもお姿を見たいと思うのに、まったくお見かけできないのです」
と言って、お二人ともひどくお泣きになる。
「このごろ明け暮れ思い出してばかりいるので、ほのかにお姿を見せてくださったのかしら。どうにか、いらっしゃる所へ尋ねて参りたい。罪深そうな身どもであるのに」
と、来世のことまで思いやっていらっしゃる。人の国にあるという香の煙が、とても手に入れたく思われる。
とても暗くなるころに、宮〔匂宮〕からお使いがある。折は、少し物思いが慰められそうである。お方〔中の君〕はすぐにはお会いにならない。
「やはり、心優しくおっとりした様子でお申し上げください。こうして〔私が〕はかなくもなってしまったら、これより情け容赦のない扱いをする人が現れるかもしれないと、心配なのです。たまにでも、この人〔中の君〕が私を思い出しておっしゃるような時に、そのようなあってはならない心遣いをする人は、あるはずがないと思うので、つらくはありますが頼もしく存じます」
と〔使いが〕申し上げると、
「〔私を〕後に残そうとお思いだったことこそ、つらく存じます」
と言って、〔大君は〕ますます顔を引き入れて隠す。
「命に限りがあるので、片時も留まるまいと思ったけれど、生き長らえることになってしまった、と思っていますよ。明日も知れない世の中で、さすがに嘆かわしいのも、誰のために惜しい命なのでしょう」
と言って、灯火を参らせて〔手紙を〕ご覧になる。
いつものように、細やかに書いていらして、
同じ空を眺めているのに、どうして不安な思いを添える時雨なのでしょう
「このように袖が濡れる」などと言うこともあっただろうか、耳に馴れた言い回しを、やはりあってはならないことと見るにつけても、恨めしさがまさっていらっしゃる。それほど世に得がたいご様子や容貌を、ますます、どうにか人に愛されたいと、好ましく艶やかに振る舞っていらっしゃるので、若い人が心を寄せ申し上げるのは、もっともなことである。
月日が経つにつけても恋しく、「あれほど窮屈なまでに契りを交わしたのだから、そうは言っても、こんなことで終わりはしまい」と思い直す心が、いつも〔匂宮に〕添っていた。お返事に、「今宵参りましょう」と申し上げると、あれこれと勧め申し上げるので、ただ一言、
霰の降る深山の里では朝夕に、眺める空もすっかり暗くなりながら
こう言うのは、神無月の晦日であった。「月も隔たってしまったな」と、宮〔匂宮〕は落ち着く心もなくお思いになって、「今宵、今宵」とお思いになりながらも、差し障りが多い時分で、五節などが早く出て来た年で、内裏あたりが今風に騒がしく紛れがちで、わざわざということもなく日々をお過ごしになるうちに、情けないほど待ち遠しくなる。はかなく人をご覧になるにつけても、それでもお心から離れる時はなく。左の大殿あたりのことについて、大宮も、
「やはり、そのような落ち着いたご後見〔となる妻〕をお迎えになって、そのほかに迎えたいとお思いの人があれば、お迎えして、重々しく大切に扱いなさい」
と申し上げなさるが、
「しばらくお待ちを。そう思うことがありますので」
〔匂宮は〕お断り申し上げて、「本当につらい目にはどうして遭わせられよう」などとお思いになるお心を〔周囲は〕お分かりにならないので、月日が経つにつれて物思いばかりしていらっしゃる。
中納言〔薫〕も、「お会いした時よりは軽やかなお心かな。そうは言っても」と思い申し上げていたのも、お気の毒で、心から思いながらも、めったに参上なさらない。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第47冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。