ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第47帖 総角 / 第23場面

危篤と千鳥の歌

あらすじ・人物・読み方

大君の病は重くなり、薫が看病に通う。常不軽の声を聞く明け方、姉妹は最後の歌の贈答を交わす。

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現代語で読む

山里〔宇治〕には、「いかがですか、いかがですか」と、お見舞い申し上げていらっしゃる。「今月になっては、少しよくなっていらっしゃる」と聞いていたが、公私とも騒がしいころで、五、六日、人もお遣わしにならなかったところ、「どうなっただろう」と、はっと驚いて、やむを得ない用事の多さを放ってお参りになる。

「修法は〔ご病気が〕すっかり治るまで」とおっしゃっておいたのに、よくなったということで、阿闍梨までお帰しになっていたので、とても人数が少なく、いつもの老女が出て来て、ご様子を申し上げる。

「これといって痛いところもなく、大げさでないご病気なのに、お食事をまったく召し上がりません。もともと、人とはお違いで、か弱くいらっしゃる上に、この宮〔匂宮〕のことが出て来てからは、ますます物思いなさる様子で、ささやかな果物さえもお口になさらなかった積み重ねでしょうか、あきれるほど弱くなっていらして、まったく頼もしくお見えになりません。世にも心憂くあります私の命の長さで、このようなことを拝見すると、まずどうにか先に死にたいと思い詰めております」

と、言い終わらないうちに泣く様子は、もっともなことである。

「心憂いことだ、どうして、こうだともお知らせくださらなかったのか。院にも内裏にも、あきれるほど用事が多いころで、このごろもお便りできなかった不安さよ」

と言って、〔大君が〕いた方へお入りになる。枕もと近くでお話し申し上げるが、お声もないようで、お答えになれない。

「こんなに重くなっていらっしゃるまで、誰も誰もお知らせくださらなかったのが、つらいことです。思い甲斐のないことだ」

と恨んで、いつもの阿闍梨をはじめ、世に効験があると聞こえる限りの人々を、たくさんお招きになる。ご修法や読経を、明くる日から始めさせようということで、殿の人々がたくさん参り集まり、上下の人が立ち騒ぐので、心細さの名残もなく頼もしい様子である。

日が暮れると、「いつものように、あちらへ」と言って、湯漬けなどをお出ししようとするが、「近くでだけでもお見守りしたい」と言って、南の廂は僧の座なので、東向きの今少し近しい方に、屏風などを立てさせて入って座っていらっしゃる。

中の宮〔大君〕は、苦しいとお思いだが、このお二人の仲を、「やはり、離れきれない仲なのだ」と皆が思って、疎んじて扱い隔てることもできない。初夜から始めて、法華経を絶え間なく読ませなさる。声の尊い限りの十二人で、とても尊い。

灯はこちらの南の間にともして、内は暗いところに、几帳を引き上げて、少し滑り入って拝見すると、老人どもが二、三人だけ控えている。中の宮〔中の君〕は、ふと隠れてしまったので、とても人数少なく、心細く臥せっていらっしゃるのを、

「どうして、お声だけでも聞かせてくださらないのですか」

と言って、お手を取って目覚めさせ申し上げると、

「心の中では思いながらも、物を言うのがとても苦しくて。日ごろお訪ねくださらなかったので、不安なまま過ぎてしまうのではないかと、残念に思っておりました」

と、息の下でおっしゃる。

「こんなにお待ち申し上げるほどまで参らなかったこと」

と言って、むせび泣きにお泣きになる。お髪などは、少し熱くなっていらっしゃった。

「何の罪によるご病気なのでしょう。人に嘆きを負わせることが、こんなことになるのですね」

と、お耳に寄せて、多くのことを申し上げると、うるさくも恥ずかしくも思われて、顔をお塞ぎになるのを、空しく見捨ててどんな心地がしようかと、胸も押しつぶされるように思われる。

「日ごろ拝見していたご様子も、穏やかでなくお思いだったでしょう。今宵だけでも、心安くお休みください。宿直の者が控えておりましょう」

と申し上げると、心配だが、「そういう事情もあるのだろう」とお思いになって、少し退いていらっしゃった。

まともに向き合うのではないが、這い寄りながら拝見していると、とても苦しく恥ずかしいけれど、「こうなるべき契りがあったのだろう」とお思いになって、この上なく穏やかで頼もしいお心を、あのもう一方の人〔匂宮〕と見比べ申し上げると、しみじみと分からずにはいられなかった。

「亡くなった後の思い出にも、心強く、思い残すことはあるまい」と慎んでいらして、みっともなく押し放すこともなさらない。一晩中、人を促して、お湯などを差し上げ申し上げるが、露ほども召し上がる様子もない。「ひどいことだ。どうやって、引き留めることができようか」と、言いようもなく思い詰めていらっしゃった。

不断経の、明け方に交替した声がとても尊いので、阿闍梨も夜居に控えて眠っていたのが、はっと目覚めて陀羅尼を読む。老い衰えてはいるが、とても功徳が積まれて頼もしく聞こえる。

「今宵はどうでいらっしゃったでしょう」

などと申し上げるついでに、亡くなった宮〔八の宮〕のことを申し出して、鼻をしきりにかんで、

〔八の宮は〕今どのような所においででしょうか。とはいえ、涼しい方〔極楽〕においでだろうと推し量っておりますが、先日、夢にお姿が見えました。

俗人のお姿で、『世の中を深く厭い離れたので心に残ることはなかったのに、少し心にかけていたことに乱されて、しばらくの間、願い〔往生〕の所から隔てられているのが、たいそう悔しい。〔往生を〕すすめる行いをせよ』とはっきりおっしゃいましたが、すぐにお仕えできる当てがございませんので、堪能な者にしたがって修行している法師たち五、六人で、所定の念仏をお勤めさせております。

そのほか思いついたことがございまして、常不軽〔の行〕をさせております」

などと申すと、君〔薫〕もひどくお泣きになる。〔大君は〕あの世でさえ〔父宮の往生を〕妨げ申し上げるような罪の深さを、苦しいご容体の中でも、ますます消え入るほどにお思いになる。

「どうにかして、あの〔中の君の将来〕がまだ決まらないうちに〔父宮のもとへ〕参って、同じ所に〔行きたい〕」

と〔思いながら〕、〔大君は〕聞きながら臥せっていらっしゃった。

阿闍梨は言葉少なに立ち去った。この常不軽は、その辺りの里々から京まで歩き回っていたが、明け方の嵐に難渋して、阿闍梨の勤めている辺りを尋ねて、中門のもとに座って、たいそう尊く拝む。回向の終わりの方の心遣いはたいそうしみじみとする。客人〔薫〕もこちら〔仏道〕へ進んだお気持ちで、しみじみと堪えきれなさらない。

中の宮〔中の君〕は、ひどく心配で、奥の方の几帳の後ろに寄っていらっしゃる〔大君の〕気配をお聞きになって、はっきりと座り直していらっしゃって、

「常不軽の声はどのようにお聞きになりましたか。重々しい祈祷の道では行わないことですが、尊いことでございました」と言って、

霜で冷え切った汀の千鳥が、侘しく鳴く声が悲しい明け方ですね

〔歌は〕普通の言葉のように聞こえる。つれない方のご様子にも通って思い比べられるけれど、〔大君は〕答えにくく、弁〔の君〕を介してお申し上げになる。

明け方の霜を払って鳴く千鳥は、物思いに沈む人の心を知っているのでしょうか

不似合いな代役〔弁の君〕だが、気品を失わずに申し上げる。このようなちょっとしたことも、遠慮がちでありながら、優しく甲斐ある様子にお取りなしになる〔大君な〕のに、「今を最後に別れてしまったら、どんな気持ちがするだろう」と〔薫は〕思い惑っていらっしゃる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第47冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。