ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第49帖 宿木 / 第19場面

宇治の装束仕立て

あらすじ・人物・読み方

宇治では、届いた装束を女房たちが仕立てる。中秋の名月が近づく。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

などとおっしゃって、〔中の君の〕御料のものは、目立たないようにではあるが、筥に包むのも特別であった。〔中の君に〕ご覧に入れることもないが、以前からも、このようなお心遣いは常のことで見慣れているので、気取ったお礼などを言い合う仲でもないので、どうこう思い煩うこともなく、人々が取り分けるなどしたので、それぞれ縫い合わせなどをする。

若い人々で、御前に近くお仕えする者などは、特別に繕い立てなければならない。下働きの者たちの、ひどくしおれていた姿などに、白い袷など〔を着せたの〕で、目立たないのがかえって具合がよかった。

〔中の君には〕誰が、何事をも後見し世話を申し上げる人がいるだろうか。宮〔匂宮〕は、並々でないご愛情のほどで、「何事もどうにかして」とお心にかけていらっしゃるけれど、細かな内々のことまでは、どうしてお思い寄りになろうか。限りなく人にばかり世話をされて育っておられたので、世の中の揃わない寂しいことがどんなものかもお分かりにならないのは、もっともなことである。

風流に何となく寒さを感じ、花の露をもてあそんで世を過ごすべきものとお思いになっていた方にしては、思いを寄せる人のためであるので、自然と折節につけて、実務的なことまでも取り扱いお知らせになるのは、ありがたく珍しいことらしく、「まあ」などと、非難がましく聞こえる御乳母などもいた。

子供たちなどの、身なりがぱっとしない者が、折々混じっているのを見ても、女君〔中の君〕は、たいそう恥ずかしく、「厄介な住まいであることだ」などと、人知れず思うことがないわけでもないところに、ましてこの頃は、世に名高い〔匂宮の〕ご様子の華やかさに加えて、「宮の邸の人々が見て思うことも、体裁の悪いことだ」と、思い乱れることも加わって嘆かわしいのを、中納言の君〔薫〕は、たいそうよく推し量り申し上げなさるので、親しくないあたりには、見苦しく煩わしくなりそうなお世話の様子も、軽んじることはないけれど、「どうして、大げさに世話をするような顔をするのも、かえって理由もなく見咎める人がいるだろう」と、〔薫は〕お思いになっているようである。

今また、いつもの見苦しくない様子の品々などを作らせになって、御小袿を織らせ、綾の料をお与えになるなどなさった。この君〔薫〕こそ、宮〔匂宮〕に劣り申し上げることはなく、格別に大切に育てられて、欠けたところがあるほど気位も高く、世の中を澄んだ目で見て、上品な心持ちはこの上ないけれど、亡き親王〔八の宮〕の山住まいを見始めてからは、「寂しい所の哀れさは格別であった」と、心苦しく思われて、世間一般のことも思い巡らし、深い情けをも身につけられた。かわいそうな人を放っておけない性分であることよ、ということだ。

「こうして、やはり、どうにか安心できる落ち着いた人として終わりたい」と思うにも、心は従わず、気にかかって苦しいので、お文などを、以前よりは細やかにして、ともすれば、忍びきれない様子を見せながら申し上げなさるのを、女君〔中の君〕は、たいそうつらいことが加わった身の上だとお思いになって嘆かれる。

「まったく知らない人であれば、ああ気が変だと、無礼に突き放すのも容易だろうけれど、昔から格別に頼もしい人として慣れ親しんできたのに、今さら仲が悪くなるのも、かえって人目に悪いに違いない。そうはいっても、浅はかでもないお心持ちやご様子が、哀れを分からないわけではない。かといって、心を交わすような顔で応対するのもたいそう気が引けて、どうすればよいのだろう」

と、あれこれ思い乱れなさる。

お仕えする人々も、少しは話し甲斐のありそうな若やかな者は、皆惜しいことに〔失われ〕、見慣れた者といえば、あの山里の古女たちである。思う心を、同じ心で親しく言い合うべき人がいないままでは、亡き姫君〔大君〕を思い出し申し上げない折はない。

「〔大君が〕生きておられたら、この人〔薫〕もこんな心を添えなさっただろうか」

と、たいそう悲しく、宮〔匂宮〕が冷たくおなりになる嘆きよりも、このことがたいそう苦しく思われる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第49冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。