第49帖 宿木 / 第2場面
御碁のほのめかし
あらすじ・人物・読み方
帝は薫を召して御碁を囲み、皇女の婿のことをそれとなく持ちかける。薫は女二の宮との結婚を思って逡巡する。
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現代語で読む
〔帝と宮は〕御碁などをお打ちになる。暮れてゆくにつれて、時雨が趣ある頃に、花の色も夕映えしているのをご覧になって、〔帝は〕人を召して、
「ただ今、殿上には誰と誰がいるか」
とお尋ねになると、
「中務親王、上野親王、中納言源朝臣〔薫〕が伺候しております」
と〔側近が〕申し上げる。
「中納言朝臣はこちらへ」
とご命令があって〔薫は〕参上なさった。なるほど、このように特に召し出される甲斐もあって、遠くから薫ってくる匂いをはじめ、人とは異なる様子でいらっしゃった。
「今日の時雨は、常より特にのどかであるが、遊びなどに興の冷める立場で、とても退屈なので、むだに日を送る戯れとして、これ〔碁〕がよいだろう」
と言って、碁盤を召し出して、御碁の相手に〔薫を〕召し寄せる。いつもこのように、親しくお側に侍らせなさるのに慣れていたので、〔薫は〕「その通りだろう」と思うと、
「お好みの賭物はあるはずだが、軽々しくはお渡しできないものを、何を〔賭けようか〕」
などとおっしゃるご様子が、どのように見えるだろうかと、〔薫は〕ますます気遣いをして伺候なさる。
さて、〔碁を〕お打ちになると、三番勝負で目数一つ〔帝が薫に〕お負けになった。
「悔しいことだな」と言って、「まず、今日は、この花一枝を許そう」
とおっしゃるので、〔薫は〕ご返事も申し上げずに、下りて美しい枝を折って参上なさった。
世の常の垣根に匂う花であれば、心のままに折って見たでしょうに。
と〔薫が〕奏上なさったのは、用意が並々でないと見える。
霜に堪えず枯れてしまった園の菊だけれど、残りの色は衰えずにあることよ。
と〔帝は〕おっしゃる。
このように、折々ほのめかしなさる〔帝の〕ご様子を、人伝てではなく直接承りながら、〔薫は〕例の心の癖なので、急ぐようには思えない。
「いや、本意ではない。さまざまに痛ましい人々のご事柄をも、よく聞き過ごしながら年を経てきたのに、今さら聖のような者が、世に帰り出る気持ちになるようなこと〔だ〕」
と思うのも、一方では不思議なことよ。
「特に心を尽くす人でさえいるというのに」とは思いながら、「〔女一の宮が〕后腹でいらっしゃるからこそ」と思われる〔薫の〕心の内は、あまりに大それていたのである。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第49冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。