第49帖 宿木 / 第3場面
六の君の縁談
あらすじ・人物・読み方
夕霧は帝の意向を聞き、娘の六の君を匂宮に嫁がせる話が進む。薫は中の君の行く末を案じる。
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現代語で読む
このようなことを、右大殿〔夕霧〕がほのかにお聞きになって、
「六の君は、それでもこの君〔薫〕にこそ〔嫁がせたい〕。渋々でも、熱心に恨み言を言って頼み寄れば、結局は、断りきれないだろう」
と〔夕霧が〕お思いになっていたのに、「思いの外のことが起こりそうだ」と、妬ましく思われたところ、兵部卿宮〔匂宮〕もまた、わざわざではないが、折々につけて、風流な様子で〔六の君に〕お便りを申し上げることなどが絶えなかったので、
「まあよい、いい加減な色好みであるとしても、然るべき縁で、〔匂宮の〕お心が留まることがどうしてないだろうか。水も漏らさぬように〔薫との縁を〕思い定めようとしても、平凡な身分に下るようなこともまた、とても体裁が悪く、満ち足りない気持ちになるだろう」
などと〔夕霧は〕お思いになるようになった。
「女子が気がかりな世の末で、帝でさえ婿をお求めになる世に、まして、普通の人が盛りを過ぎるようなこともよくない」
などと、非難がましくおっしゃって、中宮〔明石の姫君〕をも熱心に恨み申し上げなさることが度重なるので、〔中宮は〕お聞きになるのに困って、
「お気の毒に、このようにひたむきに思い志して年月をお過ごしになったのを、あいにく逃れ申し上げなさるのも、情けのない様子でしょう。親王たちは、ご後見があるからこそ、ともかくもあれ、
主上〔今上帝〕が、御代も末になってゆくとばかりお思いになりおっしゃるようですのに、普通の人こそ、一つのことに定まってしまえば、また心を分けることも難しそうに見えます。それでさえ、あの大臣〔夕霧〕が誠実でありながら、こちらもあちらも羨むことなくお取り持ちなさっているではありませんか。まして、これは〔匂宮は〕、かねて思い置いて申し上げることも叶えば、大勢〔妻が〕お仕えしてもどうして〔悪いことが〕ありましょうか」
などと、例になく言い続けて、もっともらしく申し上げなさるのを、
「私の心にも、もともと離れていて、また、思いもよらないことなので、無理には、どうしてふさわしくない様子に申し上げなさろうか。ただ、とても殊に格式ばった所に取り込められて、気楽に慣れていらっしゃる様子が窮屈になることを、〔匂宮が〕少し苦しくお思いになるのが憂いではあるけれど、なるほど、この大臣〔夕霧〕に、あまり恨まれてしまうのもよくないだろう」
などと、だんだん〔夕霧は〕お気持ちが弱ってこられたようだ。〔匂宮は〕移り気なお心なので、あの按察大納言の、紅梅のお方〔中の君〕をも、なお思い絶えることなく、花や紅葉につけてお便りを申し上げ続けながら、どちら〔六の君と中の君〕をも慕わしくお思いになっていた。しかし、その年は改まった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第49冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。