ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第50帖 東屋 / 第14場面

右近の騒ぎ

あらすじ・人物・読み方

格子を下ろしに来た右近が、宮と浮舟の事態を目にして騒ぎとなる。少将も駆けつけ、宮は大宮の御不例を知らされて帰ってゆく。

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東屋・第14場面0 / 27
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大殿油は灯籠で、「今お渡りなさるだろう」と人々が言うそうだ。御前でない方の御格子どもぞ下ろすそうだ。こちらは離れた方にして、高い棚厨子一具を立て、屏風の袋に入れ込めたのを、所々に寄せかけ、何かの荒い様子にし放してある。このように人がいらっしゃるからといって、通う道の障子一間ほどぞ開けたのを、右近といって、大輔が娘のお仕えして来て、格子を下ろしてここに寄り来た。「ああ、暗い。まだ大殿油も参らなかった。御格子を、苦しいのに、急ぎ参って、闇に惑うよ」といって、引き上げるのに、宮も、「生苦しい」とお聞きになる。乳母はまた、ひどく苦しいと思って、物包みせず、はやりかに恐い人で、

「物申し上げましょう。ここに、ひどく不思議なことがございますのに、御覧になって極めて、動けませんで」「何ごとだ」といって、探り寄ると、袿姿である男の、ひどく、香ばしくて添い臥していらっしゃるのを、「例の怪しからぬ御様子」と思い寄った。「女の心合わせなさるまじきこと」と推し量られると、

「実に、ひどく見苦しいことにもございますかな。右近は、どのようにか申し上げさせよう。今参って、御前にこそは、忍んで申し上げさせよう」といって立つのを、情けなく片意地に、誰も誰も思うけれど、宮は恐れなさらない。「情けないまで、上品に風情がある人かな。やはり、何人だろう。右近が言った様子も、ひどく押し並べての今参りではなさそうだ」心得難くお思いになって、と言いかく言い、怨みなさる。心付きなげに様子ばんでも持て成さないけれど、ただひどく、死ぬほど思っているのが、気の毒なので、情けあって、こしらえなさる。

右近は、上に、「これこれこそいらっしゃいませ。気の毒に、どのように思うだろう」と申し上げると、「例の、心憂い御様子かな。あの母も、どのようにあわあわしく、怪しからぬ様子にお思いになるだろうかとすら。後安くと、返す返す言い置いたものを」と、気の毒にお思いになるけれど、「どのように申し上げよう。お仕えする人々も、少し若やかでよろしいのは、お見捨てにならなく、不思議な人の御癖なので、どのようにかは思い寄りなさったろう」と情けないのに、物も言われなさらない。

「上達部が大勢お参りになる日で、遊び戯れては、例も、このような時は遅くもお渡りになると、皆うち解けてお休みになるぞ。さても、どのようにすべきことか。あの乳母こそ、恐ろしかった。ずっと添い居て、お守り申し上げ、引きもかなぐり申し上げそうにこそ思っていた」と、少将と二人して、気の毒がるほどに、内裏から人が参って、大宮が、この夕暮れから、御胸を悩ませなさるのを、ただ今ひどく重くお悩みになる様子を申させる。右近は、「心ない折の御悩みかな。申し上げさせよう」といって立つ。少将は、

「いや、今は、甲斐なくも、あるまじきことを、滑稽に、あまりな脅かしを聞こえなさるな」と言うと、「いや。まだそうあるべきだ」と、忍んで囁き交わすのを、上は、「ひどく聞きにくい人の御本性にこそあろう。少し心ある人は、我があたりをさえ疎みそうであるらしい」とお思いになる。

参って、御使に申すよりも、今、少し慌ただしげに申しなすと、動きなさるべき様子でもない御様子に、「誰か参った。例の、仰々しく脅かす」と仰せになると、「宮の侍に、平重経と、名乗りしていました」と申し上げる。

お出になることの、ひどくわりなく口惜しいのに、人目もお思いにならないのに、右近が立ち出て、この御使を西面でと言うと、申し次いだ人も寄り来て、「中務宮が、お参りなさった。大夫は、ただ今、参った道に、御車を引き出すのを見ていました」と申すと、「実に、急に、時々お悩みになる折々もあるのを」とお思いになると、人の思うだろうことも、はしたなくなって、ひどく怨み契り置いて、お出になった。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第50冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。