ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第50帖 東屋 / 第20場面

薫、宇治へ

あらすじ・人物・読み方

薫は宇治の御堂の完成を聞いて自ら赴き、亡き人々を偲んで涙する。弁の尼君に、浮舟を心安い所へ迎える相談を持ちかける。

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東屋・第20場面0 / 26
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あの大将殿は、例の、秋が深くなってゆく頃、慣わしたことなので、寝覚め寝覚めに、物忘れせず、あはれにのみお思いになったので、「宇治の御堂を造り果てた」とお聞きになると、自らおいでになった。久しく御覧にならなかったのに、山の紅葉も、珍しく思われる。壊した寝殿、今回は、ひどく晴れ晴れしく造りなした。昔、ひどく事削いで、聖立ちなさっていた住まいを思い出るのに、この宮も恋しくお思いなさって、様を変えてしまったのも、口惜しいまで、常よりも眺めなさる。

もとあった御しつらえは、ひどく、尊げで、今、片方を、女しく、細やかになど、一方でなかったのを、網代屏風何かの、荒荒しいなどは、あの御堂の僧坊の具に、特に、なさせなさった。山里めいた具どもを、特にさせなさって、甚くも事削がず、ひどく清げに、由々しくしつらえられた。遣水のほとりである、岩においでになって、

絶え果てない清水に、どうして亡き人の面影をさえ留めなかったのだろう。

涙を拭って、弁の尼君の方に立ち寄りなさると、ひどく悲しいとお見申し上げるのに、ただ密かに密む。長押に、かりそめにおいでになって、簾の端を引き上げて、物語なさる。几帳に隠れておいでだった。ことのついでに、「あの人は、過つころ、宮にと、聞いたのを、さすがにういういしく思えてこそ、訪ね寄らない。やはり、これより伝え果てなさい」と仰ると、

「一日、あの母君の文がございました。忌違うといって、ここかしこに、歩きなさるらしい。この頃も、不思議な小家に隠れて、いらっしゃるらしいのも心苦しく、少し近いほどならよかったら、そこにも渡して、心安いだろうのを、荒い山道に、容易くも思い立たないで、とございました」と申し上げる。

「人々がこう恐ろしく住める道に、私こそ、古り難く、分けて来た。何ほどの契りかと思うのは、あはれに」と言って、例の、涙ぐみなさった。「それでは、その心安かろう所に、消息なさい。御自分では、あちらにお出にならない」と仰ると、

「仰せ言を伝えましょうことは易い。今さらに、京を見ましょうことは、物憂くて、宮にさえ参らないのを」と申し上げる。「どうしてか。ともかくも、人が聞き伝えばこそあろう、愛宕の聖さえ、時に従っては、出ないことではなかった。深い契りを破って、人の願いを満ちなさるだろうこそ、尊かろう」と仰ると、

「人を渡すこともございませんに、聞きにくいこともこそ、出で参り来い」と、苦しげに思ったけれど、「やはり、良い折なのを」と、例でなく、強いて、

「明後日ほど、車を立てましょう。その旅の所を、尋ね置きなさい。夢にも、滑稽に、ひがわざすまじきを」と、微笑んで仰ると、煩わしく、「どのようにお思いになることだろう」と思うけれど、「奥なく、あわあわしくない御心様なので、おのずから、我がためにも、人聞きなどを、包みなさるだろう」と思って、「それでは、承りました。近いほどにこそ。御文などを、お見せさせなさいよ。振る舞い、差し出がましくて、心知らいのように思われましょうも、今さらに、伊賀専女か、と、慎ましくて」と申し上げる。

「文は、安いだろうのを、人の物言いが、ひどく情けないものなので、右大将は、常陸守の娘を、呼ぶそうだなども、取りなしそうだよ。その守の主が、ひどく荒荒しそうだ」と仰ると、うち笑って、気の毒と思う。暗くなれば、お出になる。下草の風情がある花ども、紅葉などを、折らせなさって、宮に御覧させなさる。甲斐なく、おいでになったはずだけれど、畏まり置いた様子で、甚くも馴れ申し上げなさらないそうだ。内裏から、ただの親めいて、入道の宮にも申し上げなさると、ひどく貴い方は、限りなく思い申し上げなさった。こちらあちらと、大事に申し上げなさる、宮仕えに添えて、むつかしい、私の心の添えたのも、苦しかった。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第50冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。