ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第50帖 東屋 / 第21場面

薫、東屋を訪れる

あらすじ・人物・読み方

薫は侍を遣わして浮舟を三条の小家に呼び寄せ、その夜、変装して訪れる。遣戸を隔てて語らい、ついに内へ入って思いを語る。

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東屋・第21場面0 / 26
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仰った、まだつとめて、睦ましくお思いになる、下臈侍一人、顔知らぬ牛飼いを作り出して、遣わす。「荘の者どもの、田舎びたのを、召し出しつつ、付けよ」と仰る。必ず出るべく、仰っていたので、ひどく慎ましく、苦しいけれど、うち化粧し、繕って、乗った。野山の様子を見るにつけても、昔からの古事どもを、思い出されて、眺め暮らして、来着いた。ひどくつれづれに、人目も見えない所なので、引き入れて、

「このように、参り来た」と、知る辺の男をして、言わせたので、初瀬の供にあった若人が、出て来て降ろす。不思議な所を眺め暮らし、明かすのに、昔語りをもしそうな人の来たので、嬉しくて呼び入れなさって、親と申し上げた人の御あたりの人と思うのに、睦ましいのだろう。「あはれに、人知れずお見申し上げたのちよりは、思い出で申し上げない折はないけれど、世の中、これほど思いなさり捨てた身で、あの宮にさえ、参りませんのを、この大将殿が、不思議なまで仰せだったので、思いなさり起こして」と申し上げる。君も乳母も、素晴らしいと見置き、申し上げた人の御様子なので、忘れぬ様子に仰るだろうも、あはれだけれど、急に、このようにお思い企むとは、思いも寄らない。

宵がうち過ぎるほどに、「宇治から人が参った」といって、門を、忍びやかにうち叩く。「そうだろうか」と思うけれど、弁が開けさせたので、車をぞ引き入れるそうだ。「不思議」と思うのに、「尼君に、対面を賜ろう」といって、この近い御荘の、預かりの名乗りをさせなさると、戸口にいざり出ていた。雨が少し、うち注ぐのに、風はひどく、冷たく吹き入って、言い知らず薫り来ると、「こうだった」と、誰も誰も、心ときめきしそうな、御気配が風情があるので、用意もなく、不思議に、まだ思い合えないほどなので、心騒いで、

「どのようなことにかあろう」と言い合っていた。「心安い所にて、月ごろの思いの余ることも、申し上げさせようといって」と言わせなさった。

「どのように申し上げるべきことにか」と、君は苦しげに思っていらっしゃると、乳母が見苦しがって、「そのようにいらっしゃったのを、立ちながらか、お帰し申し上げなさろう。あの殿にこそ、このように、と忍んで申し上げよう。近いほどなので」と言う。「ういういしく。どうしてか、そうであろう。若い御どち、物申し上げなさるのは、ふとしも、染み付くべくもないのを。不思議なまで、心のどかに、物深くいらっしゃる君なので、よも人の許しなくて、うち解けなさるまい」

など言うほど、雨がやや降り来ると、空はひどく暗い。宿直人の、不思議な声したのが、夜行うちして、「家の辰巳の隅の崩れ、ひどく危ない。この、人の御車が入るべくは、引き入れて御門を鎖してよ。このような人の御供人こそ、心は情けなくあれ」など言い合えるのも、むくむくしく、聞き慣れない、心地しなさる。「佐野のあたりに、家もないのに」など口ずさびて、里びた、簀子の端つ方においでだった。

差し留める葎の茂る東屋に、あまりにひどく降る雨の注ぎであることよ。

と、うち払いなさった追風は、ひどく、片端になるまで、東の里人も、驚きそうだ。とざまこうざまに、申し上げ逃れる方がないので、南の廂に、御座を引き繕って、入れ申し上げる。心安くしも、対面しなさらないのを、あれこれ押し出していた。遣戸という物を、鎖して、少し開けたので、

「飛騨の工も、恨めしい隔てかな。このような物の外には、まだ居慣れていない」と、愁えなさって、どのようにしなさったか、入りなさった。あの人形の、願いも仰らないで、ただ、「覚えない、物の間から見た時より、すずろに恋しいこと。そうあるべきだろうか、不思議なまでぞ、思い申し上げる」とぞ、語らいなさるだろう。人の様子は、ひどく可愛らしく、穏やかなので、見劣りもせず、ひどくあはれとお思いになった。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第50冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。