第51帖 浮舟 / 第12場面
雪の夜の迎え
あらすじ・人物・読み方
右近の取り成しで匂宮は浮舟と再会し、舟で橘の小島へ渡って歌を交わす。
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あちらでは、おいでになるだろうとあったけれど、「こんな雪では」と打ち解けているところに、夜更けて右近に消息した。「驚くほど、あわれだ」と、君も思った。
右近は、「どうお成り果てになるお有様だろうか」と、一方では苦しいけれど、今宵ははばかられるのも忘れてしまうだろう。言い返す手立てもないので、同じように親しく覚えた若い人の、心の様子も奥深くないのを語らって、
「大変に無体なこと。同じ心で、隠し通しなさい」と言った。一緒に入れ申し上げる。道の途中で濡れなさった香が、所狭く匂うのも、持て煩うだろうけれど、あの人のお気配に似せて、紛らわせていた。
夜のうちに立ち帰りなさるのも、かえって大変なので、ここの人目もたいそうはばかられるので、時方に図らせなさって、「川より遠方の人の家に連れておいでになろう」と構えていたので、
先立てて遣わしていたのが、夜更ける頃に参った。「たいそうよく用意して控えております」と申させる。「これは、どうなさることですか」と、右近もたいそう心慌ただしいので、寝惚けて起きた心地も、震え出して、不思議だ。
童べの雪遊びをした気配のように、震え上がっていた。「どうして」などとも言い合いさせなさらず、抱き抱えてお出になった。右近はここの後見に残って、侍従を差し上げる。
たいそう儚げなものと、明け暮れ見出す小さな舟にお乗りになって、差し渡りなさるほど、遥かな岸に漕ぎ離れたような心細く覚えて、しっかり付いて抱かれているのも、
たいそう可愛らしいとお思いになる。有明の月が澄み昇って、水の面も曇りがないところに、「これが、橘の小島です」と申して、お舟をしばらく差し留めたのをご覧になると、大きな岩の様子をして、趣のある常磐木の蔭が茂っている。
「あれをご覧なさい。たいそう儚いけれど、千年も経るだろう緑の深さを」とおっしゃって、
年を経ても変わるものでしょうか。橘の小島の崎で契る心は。女も、珍しい道のように覚えて、
橘の小島の色は変わらないでしょうが、この浮舟は行方も知れません。折から、人の様子に、趣深くばかり何事もお思いなさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第51冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。