第51帖 浮舟 / 第20場面
女房たちの諫め
あらすじ・人物・読み方
右近と侍従は浮舟を取り巻く危うさを説き、一方に心を定めるよう諫めるが、浮舟は答えることができない。
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本気ではないけれど、ほのめかしなさった様子を、あちらではますます思い添える。「ついに私の身は、怪しからず不思議になってしまうようだ」と、ますます思うところに、右近が来て、
「殿のお文は、どうしてお返し申し上げなさったのですか。大変な、忌みますというのに」「間違いがあるように見えたので、所違いかと思って」
とおっしゃる。不思議だと見たので、道で開けて見たのだった。よくない右近の様子だな。見たとは言わずに、「ああ、気の毒。苦しいおことどもでございましょう。殿は物の様子をご覧になったでしょう」
と言うと、顔が真っ赤になって、何もおっしゃらない。文を見たろうとは思わないので、「別の様子で、あのお様子を見る人の語ったことにこそ」と思うと、
「誰が、そう言うのか」などともお聞きになれない。この人々が見思うだろうことも、大変に恥ずかしい。自分の心から仕始めたことではないけれど、「心苦しい宿世だな」と思い入って寝ているところに、侍従と二人で、
「右近の姉が、常陸で、人を二人見ておりましたのを、身分ほどほどにつけては、ただこのようなものです。あれもこれも劣らない心ざしで、思い惑っておりましたほどに、女は、今の方に少し心寄せが優っておりました。
それに妬んで、ついに今のを殺してしまったそうです。そして私も住んでいられなくなりました。国には、大変にもったいない兵一人を失いました。また、この過ちをしたのも、よい郎等だけれど、こんな過ちをした者を、どうして使えよう、と言って、国の内からも追い払われ、すべて女の怠惰だと言って、館の内にも置きなさらなかったので、
東の人になって、乳母も、今に恋い泣いておりますのは、罪深くお見えになるでしょう。大変な機会のようですが、上も下も、このような筋のことは、思い乱れるのは、たいそう悪い業です。
お命はまだではないにしても、人のお身分身分につけてあることです。死ぬよりも勝る恥ずかしいことも、よい人のお身には、かえってあるものです。
一方にお思い定めなさい。宮もお心ざしが優って、真面目にさえ申し上げさせなさったら、そちらの様子にも靡かせなさって、物をそんなに嘆かせなさいますな。
痩せ衰えさせなさるのもたいそう益がない。それほど上の思い入り申し上げなさるものを、乳母がこのお急ぎに心を入れて、惑っていらっしゃるにつけても、それよりこちらに、と申し上げさせなさるお言葉こそ、たいそう苦しくて、
気の毒です」と言うともう一人が、「嫌だ、恐ろしいほどにお聞かせなさいますな。何事もお宿世にこそあるでしょう。ただお心のうちに、少しお思い靡く方を、そうあるべきにお思いならせなさい。
いやいや、たいそう畏れ多く、大変なお様子だったので、人がかくお思い急いでいる方にもお心も寄らない。しばらくは隠れていても、お思いの増しなさる方にお寄りなさい、とぞ思い得ます」
と、宮を大変に愛で申し上げる心があるので、一途に言う。「いやいや。右近は、どうなっても、事なくお過ごしなさいと、長谷、石山などにお願いを立てております。この大将殿のご荘の人々という者は、大変な無道の者どもで、一族がこの里に満ちております。
この大将殿のご荘の人々という者は、大変な無道の者どもで、一族がこの里に満ちております。大方、この山城、大和で、殿が領有なさる所々の人は、皆この内舎人という者の縁をかけていらっしゃるそうです。
その婿の右近大夫という者を元として、万事のことを置いて仰せられたそうです。よい人のお仲同士は、情けないことをし出せ、とお思いにならなくても、物の心得のない田舎人どもが、宿直人として代わり代わり控えれば、自分の番に当たって、少しのこともあるまいなどと、
過ちもあるでしょう。かつての夜のお歩きは、たいそう恐ろしく思われなさいました。宮は、無体にはばからせなさると言って、お供の人も連れずにおいでにならず、やつれてばかりおいでなのを、そのような者が見つけ申し上げたら、たいそう大変でしょう」
と、言い続けるのを、君は、「やはり、私を、宮に心を寄せ申し上げたと思って、この人々が言う。たいそう恥ずかしく、心地にはどちらとも思わない。
ただ夢のように呆れて、大変にお焦がれになるのを、どうしてこんなにも、とばかり思うけれど、頼み申し上げて年頃になった人を、今はと持て離れようと思わないからこそ、
こんなに大変にも物思い乱れるのだ。本当に、よくないことも出て来るだろう時」と、つくづくと思っていた。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第51冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。