ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第51帖 浮舟 / 第21場面

内舎人の知らせ

あらすじ・人物・読み方

薫の荘の内舎人が、知らぬ男の通いを薫が問いただしたと伝え、浮舟は文を焼き捨てて死を決意する。

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浮舟・第21場面0 / 46
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「私は、どうにか死にたい。世慣れず心苦しかった身だな。こんな、辛いことのある例は、下衆などの中にさえ多いのだろうか」と言って、うつ伏して臥していらっしゃると、

「こんなにお思い召しなさいますな。安らかにお思いなさい、と申し上げるためこそです。思いすべきことをも、そんな顔にばかり、のどかに見えさせなさるのを、このことの後、大変に心焦がれさせなさるので、たいそう不思議に拝見します」

と、心を知った限りの者は、皆こんなに思い乱れ騒ぐところに、乳母が、自分の心を静めて、物染めを営んでいる。今参りの童などの見苦しくないのを呼び取りながら、

「こんな人を御覧なさい。不思議でばかり臥せていらっしゃるのは、物の怪などが、妨げ申し上げようとするからこそ」と嘆く。殿からは、あのあった返事さえおっしゃらずに、日頃が経った。この脅した内舎人という者が来た。

なるほど、たいそう荒々しく、無骨な様子をした翁で、声が枯れ、さすがに様子のある、「女房に、物を取り申そう」と言わせたところ、右近がちょうど会った。

「殿に召しがありましたので、今朝参りまして、ただ今、退出して帰って参りました。雑事どもを仰せられた機会に、こうしておいでになる間に、夜中、暁のことも、何某らがこうして控えている、とお思いになって、宿直人をわざと差し向けさせなさることもないのを、

この頃お聞きになると、『女房の御もとに、知らない所の人が通うようにお聞きになることがある。大変なことだ。宿直に控える者どもは、その案内を聞いているだろう。

知らなくては、どう控えていられようか』と、お問わせになったのに、承らないことなので、『何某は身の病が重くございまして、宿直をお仕えすることは、月頃怠っておりますので、案内も知りかねます。

しかるべき男どもは、怠りなく催し控えさせていますのに、そのような非常のことが控えていましたら、どうして承らないことがありましょう』と申させました。用意して控えよ。

不都合なこともあれば、重く勘当させなさるだろうという旨、お言葉がありましたので、どんなお言葉かと、恐れ申しております」と言うのを聞くと、梟の鳴くよりも、たいそう物恐ろしい。返事もできずに、

「そうだな。申し上げたのと違わないことどもをお聞きになった。物の様子をご覧になったようだ。お消息もございませんよ」と嘆く。乳母は、かすかに聞いて、

「たいそう嬉しく仰せられました。盗人の多い辺りで、宿直人も初めのようでもありません。皆、身の代わりだと言いながら、不思議な下衆ばかり参らせるので、夜の歩行さえできないのに」と喜ぶ。

君は、「なるほど、ただ今たいそう悪くなってしまう身のようだ」とお思いになると、宮からは、「どう、どう」と、苔の乱れる無体さをおっしゃる、たいそう煩わしくて。

「どうなっても、一方一方につけて、たいそう辛いことは出て来るでしょう。私の身一つが亡くなってしまうことだけが、ましでしょう。昔は、懸想する人の有様が、どちらともないことに思い煩ってさえ、身を投げる例もありました。

生き長らえれば、必ず辛いことが見えるはずの身が、亡くなってしまうのは、何か惜しいことがあろうか。親もしばらくは嘆き惑いなさるでしょうが、多くの子どもの扱いに、自然と忘れ草を摘むでしょう。

生きながら台無しにして、人笑いな様子でさすらうのは、増す物思いになるでしょう」などと思い成る。子どもめいておっとりと、たおやかに見えるけれど、気高く世の有様を知る方面が少なくて、思い立てた人であるので、少し恐れるべきことを、思い寄るのだろうなあ。

厄介な反故などを破って、大げさに一度にも片付けず、灯台の火で焼き、水に投げ入れさせなど、次第に失くす。心を知らない御達は、「物へお渡りになるはずなので、つれづれな月日を経て、儚く集めなさった手習などを、お破りになるようだ」と思う。

侍従などが、見つける時は、「どうして、こんなにさせなさるのですか。あわれなお仲に、心を留めて書き交わしなさった文は、人にこそ見せさせなさらないでしょうが、物の底にお置きになってご覧になるのが、身分身分につけては、たいそうあわれでございます。

それほど素晴らしいお紙使い、畏れ多いお言葉を尽くさせなさったのを、こんなにばかりお破りになる、情けないこと」と言う。「何が。厄介で。長くあるはずのない身ですもの。落ち留まって、人のおために気の毒でしょう。

賢しらにこれを取り置いていたよなどと、漏れお聞きになるのが、恥ずかしい」などとおっしゃる。心細いことを思い持ってゆくのには、また思い立てない業だった。

親を置いて亡くなる人は、たいそう罪深いものだなど、さすがに、かすかに聞いたことも思う。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第51冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。