ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第51帖 浮舟 / 第4場面

宇治の邸を覗く

あらすじ・人物・読み方

暁に宇治へ着いた匂宮は、薫の供の時方に案内させて邸を覗き、女房たちの噂話から浮舟の境遇を知り、琴の音に誘われてその姿を垣間見る。

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法性寺の辺りまでお車で、それからお馬に召し換えになった。急いで、宵を過ぎる頃にお着きになった。内記は、案内をよく知っているあの殿の人に聞いていたので、宿直人のいる方には寄らずに、葦垣を籠めた西表を、そっと少し壊して入った。

自分もさすがにまだ見ないお住まいなので、たどたどしいけれど、人が大勢いるなどもないので、寝殿の南表に、火がほの暗く見えて、そよそよとする音がする。

参って、「まだ、人は起きているでしょう。ただ、こちらからお入りください」と、案内して入れ申し上げる。そっと上がって、格子の隙のあるのを見つけてお寄りになると、伊予簾がさらさらと鳴るのもはばかられる。

新しく清らかに造ったけれど、さすがに粗い造りで隙があったのを、誰が来て見るだろうかとも、打ち解けて、穴も塞がず、几帳の帷子を打ち掛けて押しやってある。

火を明るく灯して、物を縫う人、三、四人いる。童の可愛らしいのが、糸を縒る。この顔が、まずあの火影でご覧になったそれだ。とっさの目かと、なお疑わしいところに、右近と名乗った若い人もいる。

君は、腕を枕にして、火を眺めた目元、髪のこぼれかかった額つき、たいそう上品に艶やかで、対の御方(中の君)にたいそうよく似ている。この右近が、物を折りながら、

「このようにお渡りになってしまったら、すぐにはお帰り渡りにはならないでしょうが、殿は、『この司召の時期が過ぎて、一日頃には必ずおいでになるだろう』と、昨日の御使いも申しました。

お手紙には、どのように申し上げていらっしゃったのでしょう」と言っても、返事もせず、たいそう物思いした様子である。「折よく、這い隠れていらっしゃるようなのが、見苦しい」

と言うと、向かいにいる人が、「それは、このようにお渡りになったと、お知らせ申し上げなさるのがよいでしょう。軽々しく、どうして、音もなくては、這い隠れていらっしゃいましょう。

お物詣での後は、そのままお渡りおいでなさいませ。こうして心細いようだけれど、心にまかせて安らかなお住まいに慣れて、なかなか旅心地がするでしょう」

などと言う。またある者は、「やはり、しばらく、こうしてお待ち申し上げるのが、のどやかに様子がよいでしょう。京へなどお迎え申し上げなさった後、穏やかに親にもお会い申し上げなさいませ。

この殿が、たいそう急においでになって、急にこう申し上げなさるようです。昔も今も、物を念じてのどかな人こそ、幸せは見果てなさるものです」

などと言うようだ。右近が、「どうして、この乳母を引き止め申し上げなかったのだろう。年老いた人は、厄介な心のあるものなのに」と憎むのは、乳母のような人を非難するらしい。「なるほど、憎い者がいたな」とお思い出すのも、夢の心地がする。

傍らにいて痛いほどに、打ち解けたことどもを言って、「宮の上こそ、たいそうめでたいお幸せです。右の大殿が、それほどめでたいご威勢で、厳しく騒ぎなさるけれど、若君が生まれなさって後は、格別でいらっしゃるそうです。

このような賢しらな人々がいらっしゃらずに、お心のどかに、賢くもてなしておいでになるのでしょう」と言う。「殿(薫)だけでも、真面目にお思い申し上げることが変わらなければ、劣り申し上げるようなことがありましょうか」

と言うのを、君は、少し起き上がって、「たいそう聞きにくいこと。他の人にこそ、劣らないともどうとも思うでしょうが、あの方のことは何も言い出すな。

漏れ聞こえるようなことがあれば、傍らにいて痛いでしょう」などと言う。「何ほどの親族なのでしょうか。たいそうよく似通った気配だな」と思い比べるに、「心恥ずかしいほど上品なところは、あちら(中の君)が格別だ。

こちらはただ可愛らしく細やかなところがたいそう趣がある」。よろしく、釣り合わないところを見つけただけでも、それほどゆかしいとお思い詰めた人を、それと見て、そのままお止めになるようなご心ではないので、まして隈もなくご覧になると、

「どうやってこれを自分のものにしないではいられよう」と、心も空になって、なお見つめていらっしゃると、右近が、「たいそう眠い。昨夜もとりとめなく起き明かしました。明朝のうちにも、これは縫ってしまおう。お急がせになっても、お車は日が高くなってからでしょう」

と言って、しさした物どもを取り集めて、几帳に打ち掛けなどしながら、うたた寝の様子で寄り臥した。君も少し奥に入って臥す。右近は北表に行って、しばらくして来た。君のすぐ後ろ近くに臥した。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第51冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。