第51帖 浮舟 / 第7場面
昼の語らい
あらすじ・人物・読み方
物忌と称して宇治に留まった匂宮は、浮舟と昼の睦びを重ね、歌を贈り合って深い契りを確かめ合う。
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いつもは暮らしにくくばかり、霞む山際を眺めかねていらっしゃるのに、暮れてゆくのはわびしくばかり思い焦がれる人に惹かれ申し上げて、たいそう儚く暮れた。
紛れることなくのどかな春の日に、見ても見ても飽きず、そのことだと覚える隈なく、愛敬づいて懐かしく趣がある。それは、あの対の御方(中の君)には似て劣るものだ。
大殿の君(源氏)の盛りに匂っていらっしゃった辺りでは、格別であるはずほどの人を、比類なくお思いになるほどなので、「また知らず面白い」とばかりご覧になる。
女はまた、大将殿(薫)を、たいそう清らかに、またこんな人があろうかと見たけれど、「細やかに匂い清らかなことは、格別でいらっしゃった」と見る。
硯を引き寄せて、手習などをなさる。たいそう趣深く書き流し、絵などを所々多くお描きになると、若い心には、思いも移ってしまうだろう。「心ならず、見られない間は、これをご覧なさい」
と言って、たいそう趣深い男女が、一緒に添い臥した絵をお描きになって、「いつもこうしていられたらなあ」などとおっしゃるのにも、涙が落ちた。
長い将来を約束されても、なお悲しいのは、明日のことも分からないはかない命だからです。たいそうこう思うのが、大変なことです。心に身をもまったく任せられず、万事に図るほど、本当に死にそうに思われます。
辛かったお有様を、なまじ何のために尋ね出したのだろう」などとおっしゃる。女は、濡らしていらっしゃった筆を取って、
心を嘆くことはなかったでしょう。命だけが定めない世の中だと思っていたならば。とあるのを、「変わるようなことは恨めしく思うべきだった」とご覧になるのにも、たいそう可愛らしい。
「どんな人の心変わりを見習ったのか」などと、ほほ笑んで、大将がここに渡し始めた頃を、繰り返しゆかしがりなさって、お聞きになるのを、苦しがって、
「言えないことを、こうおっしゃるのが」と、少し恨んだ様子も、若々しい。自然とそれは聞き出すだろう、とお思いながらも、言わせたいのが無体だなあ。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第51冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。