ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第51帖 浮舟 / 第6場面

朝の右近と石山詣での母

あらすじ・人物・読み方

朝、右近は匂宮を薫と取り違えたふりをして世話を焼き、石山詣での帰りに立ち寄った浮舟の母にも、物忌のたばかりで言い抜ける。

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浮舟・第6場面0 / 45
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右近が出て、この音を立てる人に、「このようにおっしゃっているのを、やはり、たいそう具合が悪いだろう、とお申し上げなさい。驚くほど珍しいお有様は、そうお思いになっても、このようなお供人どものお心にあるでしょう。

どうして、こんなに心幼くお連れ申し上げなさるのでしょうか。失礼なことを申し上げる山賤などもいたならば、どうなったでしょう」と言う。内記は、「なるほど、たいそう煩わしくもあるな」と思い立っている。

「時方とおっしゃるのは、誰ですか。そうです」と伝える。笑って、「お考えになることどもが恐ろしいので、そうでなくても逃げて出て行くでしょう。真面目には、並々でないお様子を拝見すれば、誰も誰も、身を捨ててでも。よしよし、宿直人は、皆起きたようだ」

と言って急いで出て行った。右近は、「人に知らせないようには、どう図るべきか」と無体に思われる。人々が起きると、「殿は、そのような事情があって、たいそうお忍びになる様子を拝見すれば、道で大変なことがあったようです。

お衣どもなど、夜に忍んで持って参るように、とのお命じでした」などと言う。御達が、「ああ、恐ろしい。木幡山は、たいそう恐ろしい山だそうです。いつものように、お先駆けも追わせなさらず、やつれておいでだったのに、ああ、大変だ」

と言うと、「静かに、静かに。下衆などが、塵ほども聞いていたら、たいそう大変でしょう」と言い合っている、心地が恐ろしい。あいにく、殿のお使いがある時、どう言おうかと、

「初瀬の観音様、今日何事もなく暮らさせてください」と、大願を立てた。石山に今日お詣でさせようと、母君がお迎えに来たのだった。この人々も皆精進し、清まってあるところに、

「それでは、今日は、お渡りになれないようです。たいそう残念なこと」と言う。日が高くなると、格子などを上げて、右近が近くでお仕えした。母屋の簾は皆下ろし渡して、「物忌」などと書かせて付けてある。

母君もご自分でおいでになると言って、「夢が騒がしかった」と言いなすようだった。お手水などを差し上げた様子は、いつものようだけれど、お食事の支度が目覚ましく思われなさって、

「そこでお洗いになれば」とおっしゃる。女は、たいそう様子のよい心憎い人を見慣れているのに、時の間も見ないうちに死にそうだとお思い焦がれる人を、「心ざしが深いとは、こういうのを言うのだろうか」と思い知らされるにつけても、

「不思議な身だったな。誰も、世間の聞こえがあれば、どうお思いになるか」と、まずあの方(中の君)のお心を思い出し申し上げるけれど、「知らないのを、繰り返したいそう心苦しい。やはり、あるままにおっしゃいなさい。ひどい下衆というとも、ますますあわれでしょう」

と、無体に問いなさるが、そのお返事は絶えてしない。他のことは、たいそう趣深く近しい様子でご返事申し上げるなどして、靡いているのを、限りなく可愛らしいとばかりご覧になる。

日が高くなる頃に、迎えの人が来た。車二つ、馬の人々の、いつものように、粗い七人、八人。男どもが多く、いつものように、品品しくない気配で、騒ぎながら入って来たので、人々は傍らにいて痛がりながら、

「あちらに隠れなさい」と言わせなどする。右近は、「どうしよう。殿がおいでだ、と言ったならば、京にそれほどの人がおいでか、おいででないか、自然と聞き通わして、隠れのないこともあるだろう」と思って、この人々にも、特に言い合わせずに、

返事を書く。「昨夜から穢れさせなさって、たいそう残念なことをお嘆きのようでしたが、今夜、夢が騒がしくお見えになったので、今日だけ慎ませなさいと申して、物忌でございます。

繰り返し、残念で、物の妨げのように拝見します」と書いて、人々に物などを食べさせてやった。尼君にも、「今日は物忌で、お渡りにならない」

と言わせた。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第51冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。