第53帖 手習 / 第22場面
横川への道
あらすじ・人物・読み方
小宰相の伝言と大宮への相談を経て、薫は浮舟の生存を確信し、中堂参りのついでに横川へ向かう。
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立ち寄って、物語、などする序でに、言い出した。珍しく不思議と、どうして、驚かないことがあろうか。「宮が、お問いになったのも、このような事を、ほのかに、思い寄せて、だった。どうして、おっしゃらせ、果てないのだろう」と辛いけれど、
「私もまた、初めより、あった様子の事を、申し上げ始めなかったので、聞いて、後も、なおおこがましい心地がして、人にまったく、漏らさないのを、かえって、他には、聞こえることもあるだろう。
現実の人びとの中に、忍んでいる、事さえ、隠れのある、世の中だろうか」など、思い入って、「この人にも、そのようであった」など、明かすことは、なお、口重い、心地がして、
「なお、不思議と思った人の、事に、似てもいた、人の、様子だな。さて、その人は、なお、いるのだろうか」とおっしゃると、「あの、僧都が、山から、出た日、尼にした。
ひどく、煩った程にも、見る人が、惜しんで、させなかったのを、本人の、本意が深い旨を、言って、なったと、ありました」と言う。所も変わらず、その頃の、様子と、思い合わすのに、違う節が、ないので、
「本当に、それと、尋ね出したら、たいそう、情けない、心地もするだろうな。どうして、確かに、聞くべきだろうか。下り立って、尋ね歩くのも、頑なだ、などと、人が言いなすだろう。
また、あの宮も、聞き付けたならば、必ず、思い出して、思い入った道をも、妨げてしまうだろう。さて、『そのような事は、言うな』など、申し置いていたので、私には、そのような事を、聞いたと、そのような珍しい事を、お聞きになりながら、おっしゃらないのだろうか。
宮も、関わっているのでは、ひどく、哀れと思いながらも、まったく、そのまま、亡くなった、ものと、思いなして、止んでしまうだろう。現人になって、末の世には、黄泉の、ほとりばかりを、自然に、語らい寄る、風の紛れも、あるだろう。
私のものに、取り返し見ようという、心地は、また使わない」など、思い乱れて、「なお、おっしゃらないのだろうか」と思われるけれど、お様子の知りたそうなので、大宮に、そうすべき序でを、作り出して、啓す。
「情けなく、失ってしまったと、思っていた人が、世に、落ちぶれて、いるように、人が、真似ていましたな。どうして、そのような事が、あろうかと、思うけれど、心と、物々しく、持ち離れる、事は、ないだろうかと、思い続け、ている、人の様子で、あるので、人の、語った、様子では、
そのような様子でも、あろうかと、似つかわしく、思われる」と言って、今すこし、申し出る。宮のお事を、たいそう恥ずかしげに、さすがに、恨んでいる様子には、言いなさずに、
「あの事、また、そのようだと、聞き付けたならば、頑なに、好き好きしくも、思われないだろう。まったく、そのように、あったとも、知らない、顔で、過ごしてしまおう」
と、啓すと、「僧都が、語ったのに、たいそう物、恐ろしかった、夜のことで、耳も、留めなかった、ことです。宮は、どうして、お聞きになるだろうか。申し上げる、方のなかったお心の、程だなと、聞くと、まして、聞き付けたならば、たいそう、苦しいだろう。
このような筋について、たいそう、軽く、憂いものにばかり、世に、知られてしまったようので、心痛く」などおっしゃらせる。「たいそう、重い、お心なので、必ずしも、打ち解け、世語りにでも、人が、密かに、啓したことを、漏らさせないだろう」など、思う。
「住んでいるだろう、山里は、どこにあるのだろう。どのようにして、様子、悪くなく、尋ね寄ろうか。僧都に会ってこそ、確かな、様子も、聞き合わせ、などして、どうにか、問うべきだろう」など、ただ、この事を、起き臥し、思う。
月ごとの八日は、必ず、尊い業を、させなさるので、薬師仏に寄せ奉るのに、持て成している、便りに、中堂に、時々、参っていた。
それより、そのまま、横川にいらっしゃろうと思って、あの、弟の、童である者を、連れていらっしゃる。「その人びとには、直ぐに、知らせるな。様子に従おう」と思うけれど、ふと見る、夢の心地にも、哀れをも、加えようということだろうか。
さすがに、「その人とは、見つけながら、不思議な様子に、姿、異なる、人の中で、憂い事を、聞き付けたら、たいそう大変だろう」と、万事に、道すがら、思い乱れた、のだろうか。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第53冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。