第54帖 夢浮橋 / 第5場面
僧都の文と小君の来訪
あらすじ・人物・読み方
僧都から、薫に浮舟の消息を詳しく話してしまったと知らせる文が届き、浮舟は恨めしく思い乱れる。そこへ小君が着き、浮舟はその顔を見て弟であることを悟る。
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あちら〔小野〕では、まだ早朝に、僧都のもとから、
「昨夜、大将殿のお使いで、小君が参上なさいました。事の次第を承ったところ、つまらないことに、かえって臆してしまいました、と姫君に申し上げてください。自分で申し上げるべきことも多いけれど、今日明日を過ごしてから伺うことにしましょう」
と〔僧都が〕書きなさっていた。「これは何事か」と尼君は驚いて、こちらへ持って渡ってお見せ申し上げなさると、〔浮舟は〕顔を赤らめて、「噂が立っているのだろうか」と苦しく、「隠し事をしていた」と恨まれるだろうことを思い続けて、答えるすべもなく座っていらしたところに、
「やはり、おっしゃってください。情けなく、お心を隔てなさること」
と、ひどく恨んで、事の次第を知らないので、あわただしいほどに思いなさっていたところに、
「山から、僧都のご消息で、参った者がおります」
と言い入れた。
不思議だけれど、「これこそは、それでは、確かなご消息でしょう」と言って、
「こちらに」
と言わせたので、たいそう清らかでしなやかな童が、並々でない装束を着たのが、歩いて来る。円座を差し出したので、簾のもとに跪いて、
「このような〔格好〕では、伺候すべきでないとは、僧都は、おっしゃらなかったか」
と言うと、尼君が、返事などをなさる。文を取り入れて見ると、
「入道の姫君のお方へ、山より」
と、名をお書きになっていた。違うなどと、争うすべもない。
たいそうきまり悪く思えて、いよいよ奥に引き入られて、人に顔も見合わせない。
「いつも誇らしくしていらっしゃる人柄だけれど、たいそう情けなく、心憂い」
などと言って、僧都のお文を見ると、
「今朝、こちらに大将殿がいらして、ご様子を尋ね問われましたので、初めからあった次第を詳しく申し上げてしまいました。ご志の深かったお仲に背きなさって、あやしい山賤の中に出家なさったことは、かえっては、仏のお責めが加わるべきことであると、承って驚いております。
どうしましょう。もとのご縁をお過ちなく、愛執の罪を晴らさせ申し上げなさって、一日の出家の功徳は、計り知れないものなのですから、やはりお頼みなさいと。詳しくは、自分で伺って申し上げましょう。ともかく、この小君が申し上げてくれるでしょう」
と書いてあった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第54冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。