ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第54帖 夢浮橋 / 第8場面

使者の帰京と薫の疑い

あらすじ・人物・読み方

小野の主人は、小君に浮舟の病み悩む様子を弁明する。頼りない報告に、薫は浮舟が人に隠し据えられているのではないかと疑いを残す。

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夢浮橋・第8場面0 / 12
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主人〔小野の家の主〕が、この君〔小君〕に話を少し聞かせて、

「物の怪でいらっしゃるのでしょうか。いつもの様子にお見えになる折もなく、悩み続けておいでで、ご容貌も変わっておしまいなのを、尋ね申し上げる人があれば、たいそう面倒なことになるだろう、と拝見して嘆いておりましたのも、なるほど、このようにたいそう痛ましく、心苦しいお事どもがございましたのを、今は、たいそう畏れ多く思っております。

日頃も、ずっとお悩みの様子なのを、いよいよこうしたことどもにお心を乱されるのでしょうか、常よりも物思いに沈んでいらっしゃる様子でして」

と申し上げる。

場所にふさわしい趣のある饗応などをしたけれど、幼い心には、どことなく慌てた心地がして、

「わざわざ差し上げさせなさった証に、何事を申し上げさせようというのだろう。ただ一言をおっしゃらせよ」

などと言うと、

「なるほど」

などと言って、このようであった、と移し語るけれど、何もおっしゃらないので、甲斐がなくて、

「ただ、このように、心もとないご様子を申し上げさせなさるべきようです。雲の遥かに隔たらない程〔近い所〕にいらっしゃるようなので、山風が吹いても、また必ずお立ち寄りなさるでしょう」

と言うと、むやみに座り暮らすのも妙なことだろうから、帰ろうとする。人知れず見たいご様子も、見ることができなくなってしまったのを、心もとなく口惜しくて、心が進まないながら参上した。

〔薫が〕早く早くと待っていらしたところ、このように頼りなく帰って来たので、興ざめに、「かえって〔行かせない方がよかった〕」と、お思いになることさまざまで、「人が隠し据えているのではないか」と、ご自分の心の思い寄らない隅なく、落とし置きなさった例の癖で、と本〔底本〕にはあるようである。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第54冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。