半蔀 / 第5場面
夕顔の昔語り
あらすじ・人物・読み方
地謡がクセに、源氏が夕顔の宿を初めて見そめた夕べの様子を語る。惟光に命じて夕顔の花を折らせ、白い扇に載せて差し出させた源氏は、宿の主を尋ねようと一首を詠じる。
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地「その頃、源氏の中将と聞こえた方は、この夕顔の宿に草枕を結びました。ただ仮寝の夜もすがら、隣を聞けば三吉野や御嶽精進のお勤めの声で、『南無当来導師、弥勒仏』とお称えでした。今も尊いご供養に、その時のことが思い出されて、そぞろに濡れる袂です。なおそれよりも忘れられないのは、源氏がこの宿を初めて見そめた夕方、惟光を招き寄せて『あの花を折れ』と仰せになると、白い扇の端をひどく焦がしていたところへ、この花を折って参らせたことです。」
シテ「源氏はつくづくとご覧になって。」
地「うち渡す遠方の人に尋ねても、その花だと答えなければ、終に知らずに終わるはずでしたのに、逢うべく扇が手に触れる、その契りのほどの嬉しさ。折々尋ねて寄るならば、定めない海士のこの宿の、主を誰と、白波の寄る辺の末を頼もうと、一首をお詠じになります。」
底本:謡曲二百番:四流対照 下巻 芳賀矢一訂(金港堂書籍、明治42年)。本文画像:所蔵機関の公開資料。
明治42年(1909)芳賀矢一訂『謡曲二百番:四流対照』下巻(金港堂書籍)所収「半蔀」(観世流)の本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像と照合した独自編集本文です。底本の主文(観世流)の字句を残し、他流の異文符は本文に含めていません。発音の読みと独自訳を添えています。