野宮 / 第5場面
名乗りと姿の消失
あらすじ・人物・読み方
ロンギの掛け合いで霊は名乗りをためらいつつ、「御息所はわれなり」と明かし、夕暮れの森の黒木の鳥居に立ち隠れて消える。僧は草筵に思いを述べて、夜もすがら跡を弔う。
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野宮・第5場面0 / 8
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ロンギの地「なるほど謂れを聞くにつけても、ただ人ならぬお気色です。その名をお名乗りください。」
シテ「名乗っても甲斐ない身で、恥ずかしいことです。漏れてよそに知られてしまいましょう。よし、それならば、その名もない身かとお尋ねください。」地「ない身と聞けば不思議なこと。この世をはかなくも。」シテ「去って久しい跡の名は。」地「御息所は。」シテ「我である、と。」
地「夕暮れの秋の風、森の木の間の夕月夜、影のかすかな木の下、黒木の鳥居一柱に立ち隠れて消えてしまった。跡に立ち隠れて消えてしまった。」
ワキの言葉「片敷の上で、森の木陰の苔衣、同じ色の草筵に、思いを述べて夜もすがら、あの方のお跡を弔うということです。」
底本:謡曲二百番:四流対照 下巻 芳賀矢一訂(金港堂書籍、明治42年)。本文画像:所蔵機関の公開資料。
明治42年(1909)芳賀矢一訂『謡曲二百番:四流対照』下巻(金港堂書籍)所収「野宮」(観世流)の本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像と照合した独自編集本文です。底本の主文(観世流)の字句を残し、他流の異文符は本文に含めていません。発音の読みと独自訳を添えています。