ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

野宮 / 第4場面

御息所の物語

あらすじ・人物・読み方

僧の求めに応じて、地が御息所の来歴をクリに語る。前坊の妃として時めいたが夫に先立たれ、源氏の忍び通いに心を残したまま、娘の斎宮に付き添って伊勢へ下った経緯が述べられる。

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野宮・第4場面0 / 11
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ワキ「なおなお御息所の謂れを、丁寧にお物語りください。」

地のクリ「そもそもこの御息所と申す方は、桐壺の帝の御弟、前坊と申し上げた方のお妃で、時めく花の色香まで、夫婦の心は浅からぬものでしたのに。」シテのサシ「会う者には必ず別れがあるという習いは、もとよりのことです。」地「驚くべきことに、夢のような世とて、ほどなく夫君はお亡くなりになりました。」シテ「そうとも言い切れぬ身の露のようなはかなさで。」地「光源氏が、わけもなく忍んで通われました。」シテ「心の末路はどうなることやら。」地「また途絶えがちの仲でありましたのに。」

地「つらい仲ではあっても、さすがに思い切りなさることはなく、遥かな野の宮へ分け入って来られるお心は、まことに物哀れなことでした。秋の花はみな衰え、虫の声も枯れ枯れに、松を吹く風の響きまでも寂しい道すがら、秋の悲しみは果てしもありません。こうして君はここへお詣でになりつつ、情けをかけてさまざまの言葉の露、色々のお心の内こそ哀れなことです。」

シテ「その後、桂の御祓の折。」地「白ゆうを懸けて河波に、身は浮草の寄る辺ない心の水に誘われて、行方も知れず鈴鹿川の八十瀬の波に濡れることもなく、伊勢まで誰が思ったでしょう。言の葉に添い行く伝えも、例のないことです。親と子の、多祁の都路へ赴いた心こそ恨めしいことでした。」

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底本:謡曲二百番:四流対照 下巻 芳賀矢一訂(金港堂書籍、明治42年)。本文画像:所蔵機関の公開資料。

明治42年(1909)芳賀矢一訂『謡曲二百番:四流対照』下巻(金港堂書籍)所収「野宮」(観世流)の本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像と照合した独自編集本文です。底本の主文(観世流)の字句を残し、他流の異文符は本文に含めていません。発音の読みと独自訳を添えています。