謡曲「熊野」 / 第1場面
宗盛の館
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あらすじ・人物・読み方
平宗盛が、都に留め置く熊野への思いを語る。池田の宿からは、老母の文を携えた朝顔が迎えに上京する。
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宗盛「私は平の宗盛である。さて、遠江の国池田の宿の長者の娘を熊野と申します。長らく都に留め置いておりますが、老いた母の病気だと言って再三暇を請うけれども、この春だけの花見の相手と思って留め置いているのです。誰かいるか。
太刀持「お側におります。
宗盛「熊野が来たら、こちらへ来るよう申し伝えよ。
太刀持「かしこまりました。
朝顔「夢の間のように短く、惜しい春であることよ。夢の間のように短く、惜しい春であることよ。咲く頃の花を訪ねよう。私は遠江の国池田の宿の、長者のお邸に仕えております、朝顔と申す女でございます。さて熊野さまは長らく都にお入りですが、このところ老母さまのご病気とて、たびたび人をお上らせになりましたが、一向にお下りもございませんので、このたびは朝顔がお迎えに上ってまいりました。
朝顔「このたびの旅の衣には日数も重なり、旅の衣には日数も重なり。いくつの夕暮れの宿だったでしょう、夢も数を増す仮の枕。明かし暮らして、ほどもなく、都に早く着いてしまった。都に早く着いてしまった。
朝顔「あら嬉しい、急いだ甲斐あって、都に着きました。このお邸が熊野さまのお入りになっている所のようでございます。まず案内を申し上げましょうと思います。もし、案内を申し上げます。池田の宿より朝顔が参りました、その旨お伝えくださいませ。
底本:『謡曲全集 上巻』大町桂月・丸岡桂 校、至誠堂、明治45年[1912](国立国会図書館蔵 特63-605)所収「熊野」。本文画像:所蔵機関の公開資料。
明治45年(1912)大町桂月・丸岡桂 校『謡曲全集 上巻』(至誠堂、国立国会図書館蔵 特63-605)所収「熊野」の本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像と段落単位で照合した独自編集本文です。底本の字句を残し、句読点を補っています。発音の読みと独自訳を添えています。