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謡曲「熊野」 / 第2場面

老母の文

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老母の文をもとにした創作画
あらすじ・人物・読み方

朝顔が老母の文を届ける。熊野は文を携えて宗盛のもとへ参り、読み上げる文の切実さに訴えて暇を乞う。

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謡曲「熊野」・第2場面0 / 32
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現代語で読む

熊野「草木は雨露の恵みを受け、養われてこそ花の父母となる。まして人間においてはなおさらです。あら、気がかりなこと、何事がおありなのでしょう。

朝顔「池田の宿より朝顔が参っております。

熊野「なに、朝顔と申すのか、あら珍しい。さて母のご病気はどうなのですか。

朝顔「思いのほか重くおありです。こちらにお文がございます、ご覧くださいませ。

熊野「あら嬉しい、まずお文を拝見しましょう。あら情けないこと、このお文の様子も頼り少なく見えます。

朝顔「そのとおりでございます。

熊野「こうなっては、朝顔をも連れて参り、この文をもお目にかけて、お暇を申し上げようと思います。こちらへおいで。

太刀持「承知いたしました。申し上げます。熊野どのがお参りでございます。

熊野「わらわが参った旨を、お伝えください。

太刀持「承知いたしました。申し上げます。熊野どのがお参りでございます。

宗盛「こちらへ来いと伝えよ。

太刀持「かしこまりました。こちらへお参りあれとのお言葉でございます。

熊野「申し上げます。老母の病が思いのほか重いと申して、このたびは朝顔に文を持たせてよこしました。ご都合もおありでしょうが、ちょっとお目にかからせてくださいませ。

宗盛「なに、故郷からの文だというのか。私が見るまでもない、そこ高らかに読んで聞かせよ。

熊野「(文)甘泉殿の春の夜の夢は、心を砕くきっかけとなり、驪山宮の秋の夜の月も、永遠ではないのです。一代の教主である如来でさえ、生死の定めからは逃れなさいません。過ぎた二月の頃に申しましたように、どういうわけかこの春は。年を経た朽木桜が、今年限りの花というのに、待ちきれもしないと心弱く。

老いた鶯は、逢うこともできず涙にむせぶばかりです。ただ、よろしくお取りなし申し上げて、しばしのお暇を頂いて、今一度お目にかからせてくださいませ。そうでなくても親子は一世だけの間柄なのに、同じ世にいながら寄り添ってくださらないなら、孝行にも外れることでしょう。ただ繰り返し、命のあるうちに今一度お目にかかりたいと申すことでございます。

「年老いたので、避けられぬ別れがあると聞けば、いよいよお逢いしたいあなたです」と。昔のことまで思い出されて、涙ながらに書き留める、とあります。

地「そもそもこの歌というのは、在原業平が、その身は朝廷にあって暇のないのを、長岡にお住まいの老母が詠んだ歌なのです。それゆえ業平も、避けられぬ別れなどなければよい、千代までもと祈る子の為と、詠んだことこそ哀れなのです。詠んだことこそ哀れなのです。

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底本:『謡曲全集 上巻』大町桂月・丸岡桂 校、至誠堂、明治45年[1912](国立国会図書館蔵 特63-605)所収「熊野」。本文画像:所蔵機関の公開資料。

明治45年(1912)大町桂月・丸岡桂 校『謡曲全集 上巻』(至誠堂、国立国会図書館蔵 特63-605)所収「熊野」の本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像と段落単位で照合した独自編集本文です。底本の字句を残し、句読点を補っています。発音の読みと独自訳を添えています。