ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第4帖 夕顔 / 第11場面

四十九日の供養

あらすじ・人物・読み方

源氏は密かに四十九日の法要を営み、願文に思いを託す。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

あの人の四十九日には、ひそかに比叡の法華堂で、手を抜かず、装束をはじめ、必要な品々を細かに整えて、〔君は〕誦経などをおさせになる。経典や仏の飾りまで、おろそかではない。

惟光の兄の阿闍梨は、たいそう尊い人で、〔法要を〕引き受けたのであった。〔君は〕学問の師で、親しくお思いの文章博士をお召しになって、願文をお作らせになる。

誰とは明かさずに、愛しく思った人が亡くなってしまったのを、阿弥陀仏にお委ね申し上げるという趣旨を、しみじみとお書き出しになっているので、「このままで、加えるべきこともございませんようです」と〔文章博士は〕申し上げる。

〔君は〕こらえなさるが、お涙もこぼれ、ひどくお嘆きなので、「どなたであろう。誰という噂もなくて、こうお嘆きになるほどの人だったという、前世からの縁の尊さよ」と〔文章博士は〕言ったのであった。

ひそかにお作らせになった装束の袴を、〔君は〕お取り寄せになって、

泣く泣くも今日、私が結ぶ下紐を、どの世で解いて逢うことができるだろう。

このころまでは漂っているというのに、どの道に定まって向かっているのだろうと、〔君は〕遠くお思いになりながら、念じることをたいそう切々となさる。

頭中将をご覧になるにつけても、〔君は〕わけもなく胸が騒いで、あの撫子〔の幼い子〕の育っている様子を、お知らせしたいけれど、恨み言を恐れて、〔その話を〕お出しにならない。

あの夕顔の宿では、どちらへ〔行かれたのか〕と思い惑うが、そのまま、お尋ね申し上げることもできず、右近さえ便りを寄せないので、おかしいと思って、互いに嘆いている。

確かではないが、気配からあのほどの方ではと、ささやき合っていたので、〔宿の人々は〕惟光を頼りにしたが、〔惟光は〕ひどく無関係な、何も知らないように言い繕って、相変わらず同じように好色がましく通い歩いたので、〔人々は〕ますます夢のような気持ちがして、

もし受領の子どもの好色者が、頭中将をお恐れ申し上げて、そのまま〔女君を〕連れて地方へ下ってしまったのでは、と考えたのであった。

この家の主が、西の京の乳母の娘なのであった。〔乳母には〕三人の子があり、右近は別の者なので、隔てをお思いになって、〔女君の〕ご様子を知らせないのであったかと、〔宿の人々は〕泣き慕ったのであった。

右近のほうは、やかましく騒ぎ立てられるだろうと思って、君も、今さら〔事の次第を〕漏らすまいとお隠しになるので、〔右近は〕若君のことさえ尋ねられず、驚くほど行方も分からないまま、〔時が〕過ぎていく。

君は、せめて夢にでも〔女君を〕見たいと、ずっとお思いでいらっしゃるが、この法事をなさった翌晩、おぼろげに、あの以前の院でのままの姿を、〔君は夢に見た〕。〔その時の〕女の様子も同じように現れたので、

あの荒れた所に住んでいただろうものが、自分を見染めたという縁で、こうなってしまったのだとお考えになるにつけても、〔君には〕恐ろしく思われる。

伊予介は、十月の一日ごろに〔任国へ〕下る。女房〔空蝉〕が下るからといって、〔君は〕餞別を大げさなほどお贈りにならせる。

また内々にも、とくにお心遣いになって、細かく行き届いた、値の張りそうな櫛や扇を、数多く、旅のお祓いの幣などことさらにして、あの小袿もお遣わしになる。

逢うまでの形見だけと思って見ているうちに、すっかり袖が朽ちてしまったことだ。

細かな〔お便りの〕言葉もあるが、煩わしいので書かない。お使いは帰ってしまったが、〔空蝉は〕小君を使いに、小袿のお返事だけは申し上げた。

蝉の羽も立ち変わった夏衣を、返してくださるのを見ても、声を立てて泣かれるのでした。

〔自分がこれほど〕思っても、不思議に人とは違う気の強さで、もう離れてしまったなあと、〔君は〕あれこれと思い続けなさる。

今日は冬の立つ日なのもはっきりと、時雨が降って、空の様子はたいそうしみじみとしている。〔君は〕物思いに沈んで一日をお暮らしになって、

亡くなった人も、今日別れていく人も、二つの道に、行く先の分からない秋の暮れなのだなあ。

このように人知れぬことは苦しいものだと、〔君は〕お思い知りになったことであろう。

このような煩わしいことは、ひたすら隠し忍んでいらしたのもお気の毒で、〔語り手は〕すべて省いて、書き留めずにおいたのだが、

「どうして、帝のお子だからというだけで、連れ添う女まで欠点がなく、何かと褒めがちなのか」と、作り話めかして受け取る方がいらっしゃったので〔書き加えるのである〕。

あまりに口さがない罪は、言い逃れるところもない。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝1 [1673] 跋・国立国会図書館蔵 本別3-1。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。