第8帖 花宴 / 第2場面
朧月夜の出会い
あらすじ・人物・読み方
宴の後、源氏は弘徽殿の開いた戸口から入り、月を詠じる女性に出会います。
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現代語で読む
夜がたいそう更けて、宴は終わった。公卿たちはそれぞれ退出し、后と皇太子もお帰りになったので、あたりは静かになった。月がたいそう明るく照り出し、風情があるのを、源氏の君は、酔った心地に見過ごしがたくお感じになるので、
帝のおそばの人々も休んでいて、こんな予期していない時に、もしや、〔忍び入る〕よい隙もあるのではないかと、藤壺のあたりを、懸命に身を隠しながらうかがい歩いたが、〔中の人と〕言葉を交わせそうな戸口も閉ざしてあったので、ため息をつき、それでもこのままではいまいと思ったのであろうか、弘徽殿の細殿にお立ち寄りになると、三の口が開いていた。
女御は帝のおそばのお部屋に、そのまま参上なさっていたので、人が少なそうな気配である。奥の戸も開いていて、人の物音もしない。こういうことから、男女の過ちは起こるのだなと思い、静かに上がって、おのぞきになる。人々は皆、眠っているらしい。
たいそう若々しく魅力的な声で、ありふれた人の声とは聞こえない、「朧月夜に似るものはない」と、口ずさんで、こちらに来るので、〔源氏は〕たいそううれしく、ふいにその袖をおつかみになる。
〔女性は〕恐ろしいと思っている様子で、「ああ、気味が悪い。これは誰」とおっしゃるが、〔源氏は〕「何を〔恐れるのです〕。
深い夜の情趣を知るあなたとの出会いも、沈む月のように、並一通りでない縁なのだと思います。と言って、静かに抱きおろし、戸を押して閉めた。
思いがけないことに呆然としている様子が、たいそう親しみ深く、魅力的である。〔女性は〕震えながら「ここに、人が」とおっしゃるが、〔源氏は〕「私は皆から許されているので、〔人を〕呼び寄せたところで、何ほどのことがありましょう。ただ、こっそりしていてください」とおっしゃる声から、この君なのだと聞き定め、〔女性は〕少し気を落ち着けた。
困ったことだと思いながらも、情趣を解さず、こわばっているようには見えまいと思っている。〔源氏は〕酔い心地がいつもと違っていたのだろうか、〔女性を〕放すのは残念であり、女も若く、しなやかで、強い心で拒むことも知らないようである。
〔源氏が〕いとおしいとお感じになるうちに、間もなく夜が明けてゆくので、気が落ち着かない。女はなおさら、さまざまな思いに乱れている様子である。
〔源氏は〕「やはり名をおっしゃってください。どうして〔お便りを〕申し上げられましょう。こうして終わりにしてしまおうとまでは、いくら何でもお思いではないでしょう」などとおっしゃるが、
つらい私が、このまま世から消えてしまったなら、探すとしても、草に覆われた墓までは訪れまいとお思いですか。という様子が、優美でしっとりとしている。〔源氏は〕「もっともなことです」。〔問いとは〕違うことを申し上げているとは分かりながらも、
どこだろうと、露の宿る所を探し分けている間に、小笹の生える野原に風が吹いて、〔露を消して〕しまうかもしれません。〔女は〕「〔名乗ることを〕面倒にお思いになるのでなければ、どうして隠しましょう。もしや〔相手を〕取り違えていらっしゃるのでしょうか」とも、言い終えられず、人々が起き出して騒ぎ、上の御局へ参上する人々の様子が、ひっきりなしに入り乱れるので、たいそう困って、扇だけをしるしに交換して、お出になった。
桐壺には人が大勢仕えていて、目を覚ましている者もいるので、この様子を見て、まったく休みのないお忍び歩きだと、互いにつつき合いながら、そろって寝たふりをしている。
〔源氏は〕お入りになって横になられたが、眠れない。趣のある人の様子であったなあ。女御の妹たちのうちの一人なのだろう。まだ男女の仲に慣れていないのは、五の君か六の君なのだろう。帥の宮の奥方や、頭中将が気に入らない四の君などであれば、もう少し趣があっただろうに。六の君は東宮に差し上げようとお考えになっているのに、気の毒なことにもなりそうだなあ。
煩わしく探し求めようにも、その間も慌ただしい。これきりで終わらせようとは思っていない様子であったのに、どうして便りを交わす手だてをつかまえずに終わってしまったのだろう、などと、あれこれ思うのも、心が引かれているからなのだろう。
このようなことにつけても、まずあちら〔藤壺〕のご様子が、この上なく奥深く慎まれていることよ、と、めったにないことだと、自然にお比べになる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第8冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。