第8帖 花宴 / 第4場面
藤の宴と再会
あらすじ・人物・読み方
右大臣家の藤の宴に招かれた源氏は、簾の内に、あの夜の女性を探します。
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現代語で読む
三月二十日過ぎ、右大臣の邸の弓の競技の締めくくりに、公卿や皇子方が大勢お集まりになり、そのまま藤の花の宴を催される。〔桜の〕花盛りは過ぎてしまったが、ほかの花が散ってから〔咲くように〕と教えられたのだろうか、遅れて咲く桜が二本、たいそう見事である。新しくお建てになった殿舎は、姫宮たちの裳着の日に、磨き飾られていた。花のように栄えていらっしゃる大臣らしく、何事も華やかに取り計らっていらっしゃる。
源氏の君にも、先日宮中でお会いになった折に、ご案内なさったが、おいでにならないのは残念で、見栄えがしないとお思いになり、ご子息の四位の少将をお遣わしになる。
わが家の花が、ありふれた色であるならば、どうしてわざわざあなたをお待ちするでしょうか。
〔源氏は〕宮中においでの折だったので、帝に申し上げなさる。〔帝は〕「得意顔だな」とお笑いになり、「わざわざ〔招いている〕ようだから、早く行きなさい。姫宮たちなども育っている所なので、通り一遍には思うまいものを」などと仰せになる。
お召し物などを整えなさって、すっかり日が暮れるころ、待ち受けられて、おいでになる。桜の唐織物の直衣に、葡萄染めの下襲の裾をたいそう長く引いて、人々は皆、袍を着ているのに、くつろいだ公達姿で優雅なのが、お入りになったご様子は、本当にたいそう格別である。花の美しさまでも圧倒されて、かえって興ざめになるほどであった。
管弦の遊びなどをたいそう趣深くなさって、夜が少し更けてゆくころ、源氏の君は、ひどく酔って苦しむ様子をお見せになり、紛れて席をお立ちになった。
寝殿に、女一の宮、女三の宮がいらっしゃる東の戸口へおいでになって、寄りかかって座っていらっしゃる。藤はこの殿舎の端に面しているので、格子をすっかり開け放ち、人々が外に出て座っている。
〔簾から見える〕袖口などは、踏歌の折を思わせて、わざとらしく見せているのを、似つかわしくないと、まず藤壺のあたりを自然にお思い出しになる。
「気分が悪いのに、ひどく〔酒を〕勧められて、困っております。恐れ多いことですが、こちらにこそ、陰にでもお隠しいただけるでしょう」と言って、妻戸の御簾を引きかぶりなさると、
「まあ、厄介なこと。身分の低い人なら、尊い縁をかこつけたりいたすものですけれど」と言う様子をご覧になると、重々しくはないが、ありふれた若い女たちではなく、高貴で趣深い様子がはっきりしている。
どこからともなく香がたいそう煙たく立ち上り、衣の音もたいそう華やかに、振る舞っていて、奥ゆかしく控えめな様子は後回しにされ、華やかなことを好むあたりなので、尊いお方たちが見物なさるというので、この戸口を占めていらっしゃるのだろう。
それほど〔心を動かされる〕はずのないことだが、それでも趣深くお感じになり、どの人だろうと胸をときめかせて、「扇を奪われて、つらい目にあっている」と、おっとりした声でおっしゃって、寄りかかって座っていらっしゃる。
「不思議にも姿を変えた高麗人」などと言う方は、〔あの夜のことを〕知らないのであろうか。返事をせず、ただ時々ため息をつく様子のする方へ、〔源氏は〕寄ってきて、几帳越しに手をとらえて、
梓弓、月の入る山に迷っています。かすかに見た月の光が見えはしないかと。「どういうわけでしょう」と、当て推量でおっしゃるのを、〔女は〕こらえることができないらしい。
心をお寄せになる方であったなら、弓張りの月のない空に、迷ったりなさるでしょうか。という声は、まさしくあの人の声である。たいそううれしいけれども。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第8冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。