第42帖 匂兵部卿 / 第4場面
出生の疑い
あらすじ・人物・読み方
薫は幼い心にほのかに聞いた出生の秘密を疑い続け、誰にも問えず独り思い悩む。善巧太子の悟りを願う歌を詠み、母宮の出家の心のほどをも推し量る。
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現代語で読む
幼い心にほのかに聞いたこと〔出生の秘密〕が、折々疑わしく、心もとなく思い続けられるけれど、問うべき人もいない。宮〔母宮〕には、事の様子からでも、知っていたと思われるのは、そばにいるのもつらい筋合いなので、常々心にかけて、「どういうことであろうか、どんな因縁で、このように安らかでない思いを伴った身に生まれ出たのだろう。善巧太子が、自分の身に問うたという悟りを得たいものだ」と、独りごちていらっしゃった。
心もとないことだ。誰に問えばよいのか。どうして、初めも終わりも知らないわが身であることよ。
答えてくれる人もいない。何かにつけて、わが身に後ろめたさがある心地がするのも、ただごとではなく、嘆かしくばかり思い巡らしながら、「宮〔母宮〕もこのように盛りの御容貌をやつしておいでで、どれほどの御道心によってか、急に〔出家へ〕傾かれたのだろう。このように、思いがけず乱れたことになった出来事に、必ずつらいとお思いになる節があったのだろう。人もまさか漏らし出て、知らないことがあろうか〔いや、知っているに違いない〕。やはり、隠すべきことの噂によって、私には様子を知らせる人がいないらしい」と思う。
「朝夕、〔母宮は〕お勤めなさるようであるけれど、はかなく緩んでしまった女性の御悟りのほどでは、蓮の露も明らかに、玉とお磨きなさることも難しい。五つの何々〔の戒め〕も、やはり気がかりなのを、私は、この御心地では、せめて来世だけでも〔救われたい〕」と思う。「あのお亡くなりになった方〔源氏〕も、安らかでない思いに結ぼおれたのだろうか」などと推し量ると、世を変えてでも〔母宮に〕対面したい心がついて、元服は気が進まなかったけれど、断りきれず、自然と世の中にもてはやされて、まばゆいほど華やかな御身の装いも、心に染まずばかりで、思い静まっていらっしゃった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第42冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。