第42帖 匂兵部卿 / 第6場面
匂ふ兵部卿、薫る中将
あらすじ・人物・読み方
源中将として匂宮のもとに常参する薫。世人は二人を「匂ふ兵部卿、薫る中将」と言い続ける。匂宮は冷泉院の女一の宮を願うが、薫は世を思い澄まして関わろうとせず、十九歳で三位の宰相となる。
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こうしているうちに、少し柔らかく和らいで、好いた方に引かれるようになられたと、世の人は思い申し上げていた。昔の源氏は、すべて、このように立ててその事と、様変わりして、染まられた方ではなかった。
源中将〔薫〕は、この宮〔匂宮〕のもとへ常に参りながら、御遊びなどでも、競う物の音を吹き立て、まことに対抗心も燃やし、若い者同士思い交わしなさるはずの人柄である。いつものように、世人は、「匂ふ兵部卿、薫る中将」と、聞きにくく言い続けて、そのころ、よい女のおいでである、高貴な所々は、心ときめきに、言い寄りなどなさることもあるので、宮〔匂宮〕は、さまざまに、をかしくもありそうな辺りを言い寄って、人の御様子やありさまをうかがいたまふ。わざわざ御心にかけてお思いになる方は、特になかった。
「冷泉院の女一の宮を、そのようにしてでも拝見したいものだ。甲斐があるだろう」とお思いになったのは、母女御もたいそう重々しく、心憎くおいでである辺りで、姫宮の御様子が、まことに、たいそう得難く優れて、よその評判もおありであるうえに、まして、少し近くに仕え馴れた女房などの、詳しい御様子が、何かにつけて聞こえ伝わるなどもあるので、ますます忍びがたくお思いになるようであった。
中将〔薫〕は、世の中を深くつまらないものに思い澄ました心であるので、「かえって心を留めて、行き離れがたい思いが残るだろう」などと思うと、「煩わしい思いのありそうな辺りに関わるのは、遠慮したい」などと思い捨てなさる。差し当たって、心に染みるべきことのないほどは、利口ぶっていたのであろうか。人の許しのないことなどは、まして思い寄るはずもない。
十九歳におなりになる年、三位の宰相で、なお中将も離れない。帝、后の御もてなしぶりは、ただ人としては、憚りのないめでたい人の寵愛でおいでであるけれど、心のうちには身のほどを思い知る方があって、しみじみとすることもあったので、心に任せて、浮ついた色恋を、ほとんど好まず、万事を持て沈めながら、自然と大人びた心の様子を、人にも知られていらっしゃった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第42冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。