ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第44帖 竹河 / 第5場面

桜の碁と花の争い

あらすじ・人物・読み方

弥生、姫君たちは桜を賭けて碁を打つ。右方が勝ち、散る桜をめぐって姫君・女房・童女が歌を交わし合う。

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現代語で読む

弥生〔三月〕になって、咲く桜もあれば、散る桜もまじって曇り、だいたい花の盛りの頃、のどかに過ごしていらっしゃる所〔玉鬘邸〕は、紛らわしいこともなく、端近くに出る罪もありそうにない様子である。

その頃、〔姫君たちは〕十八、九歳ほどでいらしたのだろうか、御容貌もお人柄も、それぞれに趣がある。姫君〔姉の大君〕は、たいそう鮮やかに気高く、今風の様子でいらして、本当に、普通の人の妻として拝見するのは、不釣り合いに見えなさる。

桜色の細長に、山吹色などの、季節に合った色合いが、親しみやすく重なった裾まで、愛嬌がこぼれ落ちたように見える、お振る舞いなども、洗練されていて、心恥ずかしいほどの気品まで添えていらした。

もうお一方〔中の君〕は、薄紅梅〔の襲〕に桜色で、柳の糸のように、しなやかに垂れ、いかにもすらりとして優美で、澄んだ様子をしていて、落ち着いて心深い様子は〔姉より〕勝っていらしたが、華やかに匂うような様子は、比べものにならない〔ほど姉が勝る〕と人々は思っていた。

〔姫君たちが〕碁をお打ちになるといって、向かい合っていらっしゃる髪の様子や、御髪のかかり具合など、たいそう見所がある。侍従の君〔藤侍従〕が、立会人をなさるといって、近くに控えていらっしゃると、兄君たちが覗き込んでいらして、「侍従の評判は、格別になったものだね。御碁の立会いをお許しいただけたとはね」

と言って、大人びた様子で座り込んでいらっしゃると、御前にいる人々は、あれこれ座り直す。中将が、「宮仕えが忙しくなっておりますうちに、人に後れを取ってしまったのは、たいそう残念なことですな」と嘆いていらっしゃると、「弁官は、まして、私事の宮仕え〔ご奉仕〕が怠りがちになるままに、それほどまでお見捨てになるでしょうか」などと〔右中弁が〕申しなさる。〔姫君たちは〕碁を打ち止めて、恥じらっていらっしゃるのが、たいそう愛らしい。

「内裏あたりなどに出入りしていても、故殿〔鬚黒〕がいらしたら、と思われてならないことが多くて」などと、〔中将は〕涙ぐんで〔姫君たちを〕拝見なさる。〔中将は〕二十七、八歳ほどでいらっしゃるので、たいそう立派に整っていて、この御様子〔姫君たち〕を、「どうにか、昔〔父が〕お考えになっていた通りに、違わず実現できれば」と思いながら座っていらした。

御前の花の木々の中でも、香りが勝って美しい桜〔の枝〕を折らせて、「ほかのとは違うね」などと、〔姫君たちが〕愛でて遊んでいらっしゃるのを、「お幼くいらした時、この花は、私のもの、私のものと、お争いになったのを、故殿は、姫君〔姉〕の御花だとお決めになった。お上〔尚侍〕は、若君〔中の君〕の御木とお決めになったのを、それほど泣き騒ぎはしなかったけれど、面白くなく思われたことでしたね」と言って、「この桜が老木になってしまったにつけても、過ぎ去った年月を思い出しますと、多くの方に後れてしまいました私の、身の悲しみも、止めようがありません」

などと、〔中将は〕泣いたり笑ったりしながら申し上げて、いつもよりのんびりしていらっしゃる。〔中将は〕人の婿になって、心静かに〔実家で過ごす様子〕も今は見られないのに、花に心を留めて過ごしていらっしゃる。

尚侍の君は、このように立派な人々の親におなりになる御年齢を思うよりは、たいそう若く清らかで、まだ盛りの御容貌と見えなさった。冷泉院の帝は、多くは、この御様子〔玉鬘〕が今も慕わしく、昔が恋しく思い出されなさるので、何かにつけて〔口実を〕と、お考えを巡らして、姫君の御事を、熱心にお申し入れになるのであった。院へお参りになることについては、この君たち〔息子たち〕が、

「やはり、見栄えのしない心地がするでしょう。万事、時節にかなったことをこそ、世間の人も認めるようです。本当に、たいそうお仕え申し上げたい御様子は、この世に比べるものなくいらっしゃるようですが、盛りを過ぎた心地がいたしますね。琴や笛の調べも、花や鳥の色も音も、時節に従ってこそ、人の耳も留まるものです。東宮は、いかがでしょう」などと申し上げると、

「さあ、はじめから高貴な方が、並ぶ者もない様子でだけ、いらっしゃるようですから。かえって〔後から〕交じろうとするのは、胸が痛み、人笑いになることもあるかと、遠慮されるのです。殿〔鬚黒〕がいらしたら、将来の御運勢は分かりませんが、ただ今は、甲斐のある様子にお世話なさったでしょうに」などと〔尚侍が〕おっしゃり出して、皆しみじみと悲しい。

中将などがお立ちになった後、君たち〔姫君たち〕は、打ち止めていた碁をお打ちになる。昔からお争いになる桜を賭け物にして、「三番勝負で、一つ多くお勝ちになった方に、やはり花〔の木〕を寄せましょう」と、冗談を交わし合って申し上げなさる。暗くなったので、端近くで打ち終えなさる。御簾を巻き上げて、人々は皆〔勝負に〕挑むように念じて見守る様子が聞こえる。折しも例の少将〔蔵人少将〕が、侍従の君の御部屋に来ていたのを、〔侍従は兄たちに〕連れられて出ていらしてしまったので、たいてい人の少ないところに、廊の戸が開いているのに、〔少将は〕そっと寄って覗いた。

このように、嬉しい機会を見つけたのは、仏などがお現れになるのに行き当たったような心地がするのも、頼りない〔少将の〕心によるのだろう。夕暮れの霞の紛らわしさは、はっきりしないけれど、じっと見ると、桜色〔の装束の姫君〕の区別も、それと見分けられた。本当に、〔花が〕散ってしまう後の形見にも見たいほど、香り豊かに美しく見えなさるのを、ますますよそへ〔嫁がれて〕行ってしまわれそうなことが、つらく思いが募る。若い人々の打ち解けた姿は、夕日に映えて趣深く見える。右がお勝ちになった。「高麗の乱声〔右方の勝ちに奏する楽〕は、遅いね」などと、得意そうに言う者もある。

「右に心をお寄せ申し上げて、西の御前に寄っております木を、左のものとして、長年の御争いが、こうなれば、決着がついたというものです」と、右方は気持ちよさそうに囃し立てるのが聞こえる。〔少将は〕何事か知らないけれど、面白いと聞いて、口を挟みたくもなったけれど、「打ち解けていらっしゃる折に、具合が悪いだろう」と思って、出て去る。「また、このような紛れ〔の機会〕もあるか」と、物陰に沿って、様子を窺い歩いていた。

君たち〔姫君たち〕は、花の争いをしながら日々を明かし暮らしていらっしゃると、風が荒々しく吹いた夕方、〔花が〕乱れ落ちるのがたいそう残念で惜しいので、負け方の姫君が、

桜のせいで、風が吹くたび心が騒ぐことです。私を思ってくれない花だと、見ながらも〔心は離れません〕。

〔負け方の姫君の〕お味方の宰相の君が、

咲いたかと思うと一方では散ってしまう花なのですから、負けることを深い恨みとはいたしません。

と申し上げて助けると、右の姫君が、

風に散るのは世の常ですが、枝ごと〔私のものに〕移ってきた花を、ただ平気で見てはいられません。

この〔右の〕お味方の大輔の君が、

心あって池の汀に落ちる花よ、泡となっても私の方へ寄っておくれ。

勝ち方の童女が〔庭に〕下りて、花の下を歩き回り、散った〔花びら〕をたいそう多く拾って、持って参った。

大空の風に散っても、桜の花は自分のものだと掻き集めて見ます。

左〔負け方〕のなれきが、

桜の花の匂いをたくさん散らすまいとしても、〔空を〕覆うほどの大きな袖があるでしょうか、いやありません。

心が狭いように見えますね」などと言って落とす〔からかう〕。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第44冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。