ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第45帖 橋姫 / 第14場面

橋姫の歌

あらすじ・人物・読み方

姫君の側からのほのかな返歌を受け、薫は帰りがたく思いながらも硯を召して帖名にゆかりの歌を書き、宿直人に持たせる。大君は宇治川の棹の雫に寄せて返歌を書き、添えた一言とともに、薫の心に深く残る。

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現代語で読む

雲の湧く峰の懸け路を、秋霧がますます隔ててしまう時節でございますね。少し嘆いておられる様子は、浅からず心打たれる。

どれほど趣深い節も見えない辺りだけれど、実に、心苦しいことが多いにも、明るくなっていくので、さすがに真正面に向き合う心地がして、「中途半端なほどに、お聞きかけたことの多い残りは、もう少し顔馴染みになってこそ、お恨み申し上げるべきでしょう。それに、このように世の人のように、おもてなしになるべきなら、思いもかけず、物事をお分かりでなかったと、恨めしいことです」と言って、宿直人が整えた西向きの部屋におられて、眺めていられる。

「網代の辺りは、人騒がしい様子です。しかし、氷魚も寄らないのでしょうか。殺風景な景色です」と、御供の人々は見知って言う。「粗末な舟々に、柴刈りを積んで、それぞれに何ということもない世の営みに、行き交う様子が、儚い水の上に浮かんでいるのは、誰も思えば同じことで、世の無常である。私は浮かばず、玉の台(宮中)に静かな身と、思うべき世だろうか」と思い続けられる。

硯を召して、向こう(姫君たち)にお聞かせになる。橋姫の心を汲みとって、浅瀬に棹をさすその雫に、私の袖は濡れてしまった。眺めておられるのだろう」と言って、宿直人に持たせられた。

たいそう寒そうに、不機嫌な顔をして持って参る。ご返歌は、紙の香など、並々ではないはずの恥ずかしげなのを、素早さこそこういう折には大切だと言って、差し返す宇治川の川長の、朝夕の棹の雫が、私の袖を朽たし果ててしまうのでしょう。身さえ浮いて」と、たいそう趣深くお書きになっていた。「本当に見事でいらっしゃることよ」と、心が留まったけれど、「御車を引いて参りました」と、人々が騒がしく告げるので、宿直人だけを召し寄せて、「お帰りになる頃には、必ず参るように」などとおっしゃる。濡れたお召し物は、皆この人に脱いで掛けておやりになり、取りにやらせた御直衣に着替えて差し上げた。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第45冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。