ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第45帖 橋姫 / 第15場面

帰京と文のやりとり

あらすじ・人物・読み方

帰京した薫は、老女の物語が心にかかり、姫君たちの奥ゆかしさが面影に残る。謹んだ文を姫君たちへ送り、老女に残りの話を促すよう言付け、宿直人への心づけや、山籠もりの僧たちへの布施も忘れない。宿直人は薫の脱ぎ捨てた衣の移り香に、人々から咎められ羨まれる。

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老女の物語が、心にかかって思い出される。思っていたよりは、この上なく優っていて、趣深かったご様子が、面影に添って、「やはり、思い離れがたい世の中だったのだ」と、心弱く思い知らされる。

お文を差し上げられる。懸想めいてもおらず、白い色紙の厚く大きいのに、筆を整えて選り、墨の付き具合も見所があってお書きになる。「突然の様子かと、むやみに思いとどまっておりまして、残りが多いのも苦しいことです。片端をお聞き置きになったように、今よりは、御簾の前も、気楽にお許しいただけるでしょう。ご山籠もりが終わる日数も承っておきまして、鬱々とした霧の迷いも、晴らすことができましょう」などと、たいそう真っ直ぐにお書きになっている。左近将監である人が、御使いとして、「あの老女を訪ねて、文も受け取らせよ」とおっしゃる。宿直人が寒そうに歩き回っていたことなどを、気の毒にお思いやりになって、大きな檜の破籠のようなものを、たくさん持たせておやりになる。

翌日、あの御寺にもお届けになる。「山籠もりの僧たちは、この頃の嵐には、たいそう心細く苦しいだろうから、あちらにおられるほどの布施を、差し上げるべきだろう」とお思いやりになって、絹や綿などが多かった。ご勤行が終わって、お出ましになる朝であったので、勤行の人々に、綿、絹、袈裟、衣など、すべて一領分ずつ、いる限りの大徳たちにお与えになる。

宿直人が、お脱ぎ捨てになった、艶やかで素晴らしい狩のお召し物や、言いようもない白い綾のお召し物の、しなやかで言い知れず匂っているのを、移して着て、身はまた、変えられないものなので、似つかわしくない袖の香を、人ごとに咎められ、羨まれて、かえって居心地が悪かった。心のままに、身を気楽に振る舞うこともできず、たいそう不格好なほどに、人の驚く匂いを、失ってしまいたいと思うけれど、身分の高い方の御移り香なので、濯ぎ捨てることもできないのは、度が過ぎていることよ。

君(薫)は、姫君のご返事が、たいそう見事で子供らしいのを、面白くご覧になる。宮にも、「このように御消息がございました」などと、人々が申し上げて、ご覧に入れると、「何を。懸想めいて近づかれるのも、かえって困ったことだろう。例の若い人に似ないご気性のようなので、(私が)亡くなった後もなどと、一言ほのめかしておいたので、そのようにして、心を留められたのだろう」などとおっしゃった。

宮ご自身も、さまざまのお見舞いの言葉や、山の岩屋に余ったことなどをおっしゃるのに、薫がお参りしようと思われて、「三の宮が、このように奥まっている辺りの、見まさりするのが面白いだろうと、大雑把な話にでもおっしゃるものを、話を弾ませて、お心を騒がせ申し上げよう」と思われて、のどかな夕暮れに参上された。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第45冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。