ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第46帖 椎本 / 第11場面

雁の歌と兵部卿宮

あらすじ・人物・読み方

帰り際、雁の声に薫は歌を詠む。兵部卿宮は対面のたびに姫君たちのことを話題にし、姉妹はひそかに思い悩んで年を越す。

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現代語で読む

「ひどく暮れてしまいました」と〔薫が〕申すと、〔大君は〕物思いにふけりながらお立ちになる際に、雁が鳴いて渡っていく。

秋霧の晴れない空にいっそう強く、この世を仮のものと言い知らせることだろう。

兵部卿宮に対面なさる時は、まずこの君たち〔姫君たち〕のご事を話題になさる。「今はいくらなんでも安心できるだろう」とお思いになって、宮〔兵部卿宮〕は、丁寧にお申し上げになった。はかないお返事も、申し上げにくく遠慮がちな方に、女方〔大君〕は思っていた。

「世間でとてもひどく浮名を好まれるお噂が広がって、好ましく色っぽく思われているらしいのも、このようにひどく埋もれた葎の下から差し出したような手つきも、どれほど初々しく、古めかしいだろう」などと思い屈していらした。

「それにしても、驚くほどに過ぎていくのは、月日であることよ。このように、頼みにくかった〔宮の〕ご世を、昨日今日のこととは思わず、ただおおむね定めないはかなさばかりを、日々のことに聞き見したけれども、自分も他人も遅れ先立つほどの月日が経つだろうか、などと思っていたよ」

「過ぎ去った日々を思い続けるのも、何の頼もしい世でもなかったけれども、ただいつとなくのどかに眺め過ごし、恐ろしく遠慮すべきこともなく過ごしてきたものを、風の音も荒々しく、例に見ない人影も、連れ立って声を立てると、まず胸がつぶれて、恐ろしく侘しく思われることまで加わったのが、ひどく堪えがたいこと」

と、二人で語らいながら、〔涙を〕干す間もなく過ごしていらっしゃるうちに、年も暮れてしまった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第46冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。