第46帖 椎本 / 第13場面
新年の訪問と懸橋の歌
あらすじ・人物・読み方
新年、薫が雪を踏み分けて訪れ、大君と語り合う。中の君は「雪深き山のかけはし」の歌を書き送り、薫が返歌する。
下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。
表示と音声の設定
現代語で読む
中納言の君〔薫〕は、「新しい年は、ふとお訪ね申し上げることもできないだろう」と思っていらした。雪もとても降り積もっているのに、相応の人さえ見えなくなってしまったところを、並々でない様子で、軽やかにいらっしゃった心配りの、浅くはないと思い知りなさったので、例よりはよく見入れて、お座席などを引き整えさせる。
墨染めではないお火桶で、奥にあったものを取り出して、塵を払ったりするにつけても、宮〔八の宮〕が待ち喜びなさったご様子などを、人々も申し出る。対面なさることを、遠慮がちにばかり思っていたけれども、思いの隈ないように人がお思いになるので、どうしようもないとして、申し上げなさる。
打ち解けてはいないけれども、以前よりは少し言葉を続けて、何かおっしゃる様子は、とても見やすく、心恥ずかしいほどである。「このようなことだけでは、過ごし終えることはできない」とお思いになるのも、「とても唐突な心だな。やはり、移ろいゆく世であることよ」と思い続けていらした。
「宮〔兵部卿宮〕が、とても不思議に恨みなさることがございますよ。哀れだったご一言を承っておいた様子などを、ことのついでにでも、漏らして申し上げたのだろうか。またとても隈ないお心の性質で、推し量りなさるのでしょうか、ここに、ともかくも申し上げさせるべきだと頼むのに、冷たいご様子なのは、取り損なって申し上げるのだと言って、たびたび恨みなさるので、心外なことと思いますけれども、里の案内役が、とてもこの上なく争い申し上げることもできないのを、何だ、とてもそれほどまでおもてなし申し上げなさるだろうか。
お好みになるように、人は申し上げているようですが、心の底が不思議に深くいらっしゃる宮なのです。冗談などをおっしゃる辺りの、心軽くてなびきやすいことなどを、珍しくないものに思い落としなさるのでしょうか、と聞くこともございます。何事にもあるに従って、心を立てる方法もなく、戯けた人こそ、ただ世間の扱いに従って、あれもこれも並々に見なし、少し心に違う節があるにも、どうしよう、そうなるべきだ、などとも思いなすようなので、かえって心の長い例になることもある。
崩れ始めては、龍田の川の濁る名をも汚し、言う甲斐なく名残のないようなことなども、皆混じっているようです。心に深く染みなさるはずのご心の様子にかなって、特に背くことが多くなどなさらない方をば、決して、軽々しく、初めと終わりが違うようなことなど、お見せなさるはずのない様子でございます。
人がお見申し上げて知らないことを、とてもよく見申し上げたのを、もし相応しく、そうかと思い寄りなさったら、そのおもてなしなどは、心の限りを尽くしてお仕え申し上げるでしょう。ご中道のほどで、乱れた脚こそ痛いでしょう」
と、とても真面目に、言い続けなさると、ご自身のこととは思いもかけず、「人の親らしく答えるだろう」と思い巡らしなさるけれども、なお言うべき言葉もない心地がして、
「どうとかは。おこがましいようにおっしゃい続けるので、かえって申し上げることも思いつきませんで」
と、微笑みなさるのも、穏やかであるものの、様子が趣深く聞こえる。
「必ずご自身がお聞きになって引き受けるべきこととも思いません。それは、雪を踏み分けて参ってきた志ばかりを、ご覧になってお分かりになるお兄さま〔薫〕のお心でもって過ごさせなさってよいでしょう。あのご心寄せは、また別であるはずです。ほのかにおっしゃる様子もあるようでしたが、さあ、それも人が聞き分けることが難しいことです。お返事などは、どちらの方にお申し上げになるのですか」
とお尋ね申し上げなさると、「よくぞ、戯れにも申し上げなかったことだ。何となくではあるけれど、このようにおっしゃるのにも、どれほど恥ずかしく胸がつぶれるだろう」と思うので、お答え申し上げることができない。
雪深い山の懸け橋は、あなたでなければ、また踏み通う跡を見ないことだ。
と書いて、差し出しなさると、
「あなたのご抵抗こそ、かえって心が引かれてしまうはずです」と言って、
氷柱が閉ざし駒が踏みしだく山川を、案内するついでにまず渡ろうか。
それならばなおさら、姿さえ見える証も、浅くはございません」
と申し上げなさると、思いがけず、むっとした様子になって、特にお答えにならない。はっきりと、とても遠慮してすくんだ様子にはお見えにならないけれども、今風の若い人たちのように、色っぽくも振る舞わず、とても見やすく、のどかな心持ちであるのだろうと、推し量りなさる人のご様子である。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第46冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。