第46帖 椎本 / 第14場面
椎が本の歌
あらすじ・人物・読み方
薫は宿直人の嘆きを聞き、亡き宮の部屋を開けて塵を払い、「立ち寄らむ蔭と頼みし椎が本」の歌を詠む。
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現代語で読む
〔薫は〕こうあってほしいと願っていたとおりで、思っていたのと違わない気持ちでいらっしゃる。〔薫が〕何かにつけてそれらしく近づこうとするのも、〔姫君たちは〕知らない顔をしているふうにばかり振る舞われるので、〔薫は〕気恥ずかしくて、昔物語などをまじめに〔姫君たちに〕お話し申し上げなさる。
「日がすっかり暮れてしまえば、雪でますます空も閉ざされてしまうでしょう」と、御供の人々が声をかけ合うので、〔薫は〕お帰りになろうとして、「心苦しく拝見して回られるお住まいの様子ですね。ただ山里のようにとても静かなところで、人も行き交わないところですが、それほどお思いかけくださるなら、どんなに嬉しいことでしょう
などと〔薫が〕おっしゃるのも、「とても素晴らしいことだわ」と片耳で聞いてほほ笑む女房たちがいるのを、中の宮は、「とても見苦しい、どうしてそんなふうでいられましょう」と見聞きしていらっしゃった。
果物が趣のある様子で出され、御供の人々にも、酒の肴などが適当なほどに出されて、土器〔の杯〕をお出しになられた。また〔薫の〕お移り香で騒がれた宿直人が、鬘や鬚とかいう顔つきで感じがよくないでいるのを、「頼りなさそうな頼もし人だこと」と〔薫は〕ご覧になって、呼び出された。
「どうですか。〔八の宮が〕お亡くなりになった後は、心細いでしょうね」などと〔薫が〕お尋ねになる。〔宿直人は〕顔を伏せながら、心弱そうに泣く。「世の中に頼る寄る辺もございません身で、〔八の宮〕お一人のお蔭に隠れて、三十余年を過ごしてまいりましたので、今はなおさら、野山に交じっておりましても、どの木の下を頼ればよいのでございましょう」と申し上げて、ますますみっともない様子である。
〔薫が八の宮の〕お住まいだった方をお開けさせになると、塵がひどく積もっていて、仏だけは花の飾りが衰えず、〔八の宮が〕修行なさっていたと見える御座所などを取りのけて、掃き清めた。〔薫は〕本意を遂げられるならとお約束申し上げたことを思い出して、
立ち寄る蔭と頼りにしていた椎の木のもとの〔八の宮の住まいは〕、空しい座所になってしまったことだなあ。
と言って、柱に寄りかかっていらっしゃるのを、若い人々は覗いて感嘆申し上げる。
日が暮れたので、近くの所々に荘園などを管理する人々に馬の飼料を取りにやったところ、君〔薫〕もご存じないのに、田舎じみた人々が大げさに引き連れて参ったのを、「奇妙で、はしたないことだ」とご覧になるけれど、〔薫は〕年老いた人に紛れていらっしゃった。おおかたこのようにお仕えするように言い置いて、〔薫は〕お出になった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第46冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。