第46帖 椎本 / 第15場面
蕨と桜の贈答
あらすじ・人物・読み方
春、姉妹は蕨と芹の歌を交わす。花盛り、兵部卿宮が桜の歌を送って迫り、中の君が返歌する。
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現代語で読む
年が改まると、空の様子がうららかなのに、汀の氷が解けたのを、〔姫君たちは〕珍しいことと眺めていらっしゃる。聖の坊から、「雪解けに摘んだものです」と言って、沢の芹や蕨などを〔姫君たちに〕差し上げた。〔それを姫君たちの〕精進の御食事にお出しした。
「場所柄、こうした草木の様子に従って、過ぎ行く月日のしるしも見えるのが、趣がありますね」などと人々が言うのを、〔大君は〕「何が趣があるのだろう」とお聞きになる。
あなたが折る峰の蕨と見たならば、春のしるしも人に知られてしまうだろうか。
雪深い汀の小芹を、誰のために摘み交わそうか、親もいない身では。
などと、取りとめのないことどもを語り合いながら、〔姫君たちは〕日々を過ごしていらっしゃる。
中納言〔薫〕からも宮〔匂宮〕からも、折を過ぎさせずにお便りを申し上げなさる。煩わしく何ということもないことが多いようなので、例によって書き漏らしたのであるらしい。
花盛りの頃、宮〔匂宮〕は「かざし」のことを思い出しなさって、その折に見聞きなさった君たちなども、「とても由緒のあった親王〔八の宮〕のお住まいを、またも見ないままで終わったこと」などと、おおかたのしみじみした思いが口々に聞こえるので、〔匂宮は〕とても見たく思われたのだった。
人づてに見た宿の桜を、この春は霞に隔てられずに折って簪にしよう。
と、心を慰めておっしゃったのだった。「あってはならないことだ」と〔大君は〕ご覧になりながら、とても退屈な折に、見所のあるお手紙を、上辺だけでもなかったことにはすまいとして、
どこにあるのかと尋ねて折りましょうか、墨染めの〔喪服の〕身に霞に包まれている宿の桜を。
それでも、こうして放っておいて、つれないご様子ばかりが見えるので、〔匂宮は〕本当に辛いとお思い続ける。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第46冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。