第46帖 椎本 / 第17場面
夏の垣間見
あらすじ・人物・読み方
その年の夏、涼を求めて宇治を訪れた薫は、障子の穴から姫君たちの姿を垣間見る。その美しさに心を動かされ、帖は閉じられる。
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現代語で読む
その年、例年よりも暑さを人が辛がるので、「川面は涼しいだろうなあ」と〔薫は〕思い出して、急にお参りになった。朝の涼しいうちにお出かけになったので、生憎と差してくる日差しも眩しくて、宮〔八の宮〕がいらした西の廂に、宿直人を呼び出して〔薫は〕いらっしゃる。
向こうの母屋の仏の御前に、君たち〔大君と中の君〕がいらっしゃったのを、近づきにくいだろうとして、ご自分の方へお渡りになる気配が、忍んでいても自然と身動きなさるほど近く聞こえたので、やはり〔見ずには〕いられないと、こちらへ通じる障子の端の方に、掛け金をしたところに穴が少し開いているのを〔薫が〕見つけておられたので、外に立てた屏風を引きやってご覧になる。
こちら側に几帳を添えて立ててあるのを、「ああ、残念だ」と思って〔几帳を〕引き戻す、その折ちょうど、風が簾をひどく吹き上げそうなので、
「丸見えにもなりかねない。その几帳を押し出してこそ〔隠れるのに〕」と言う人がいるようである。おこがましいことだが、嬉しくて〔薫が〕ご覧になると、背の高い人も低い人も、几帳を二間の簾に押し寄せて、この障子に向かって、開いた障子から向こうへ通ろうというのであった。
まず、一人が立ち出て、几帳から差し覗いて、この御供の人々があれこれ行き違い、涼み合っているのをご覧になるのであった。濃い鈍色の単衣に、萱草色の袴を目立たせているのが、かえって様子が変わって華やかに見えるのは、着こなしていらっしゃる人柄によるのだろう。
帯を儚げにしなわせて、数珠を引き隠して持っていらっしゃる。とてもすらりとして、姿が趣のある人の髪は、袿に少し足りないほどだろうと見えて、末まで塵の乱れもなく、つやつやと豊かに、美しそうである。横目など、ああ愛らしいと見えて、匂うように柔らかにおっとりした様子は、女一の宮もこんな様子でいらっしゃるのだろうと、ほのかに拝見したことも思い比べられて、〔薫は〕つくづくと嘆かれる。
また〔もう一人が〕膝行して出て、「あの障子は、丸見えにもなりかねない」と見遣っていらっしゃる用心は、打ち解けていない様子で、風情があるように思われる。頭つきや髪の挿し具合は、今少し上品で優美な様子である。
「向こうに屏風も添えて立ててあります。急いでも、〔薫が〕お覗きにはならないでしょう」と、若い人々が何気なく言う者がいる。
「とんでもないことだわ」と言って、心配そうに膝行して入りなさる様子に、気高く奥ゆかしい様子が添わって見える。黒い袷一揃い、同じような色合いをお着けになっているけれど、こちらは親しみやすく優美で、しみじみと心苦しく思われる。髪はさらりとしたほどに落ちているのだろう、末が少し細くなって、色なりとかいうのだろうか、翡翠めいてとても趣があり、糸を撚りかけたようである。紫の紙に書いた経を片手に持っていらっしゃる手つきは、あちらよりも細さがまさって、痩せ痩せしているのだろう。立っていた君〔中の君〕も、障子の口にいて、何事だろうか、こちらを見遣って笑ったのが、とても愛敬がある。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第46冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。