第46帖 椎本 / 第3場面
絶えぬ文と思慕
あらすじ・人物・読み方
都へ戻った兵部卿宮は宇治へ文を送り続け、中の君が応じる。姫君たちは大君二十五歳、中の君二十三歳。その秋、薫は中納言に進む。
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現代語で読む
花盛りで、四方の霞も眺めやるほど見所があるのに、唐の歌も大和の歌も、歌は多いけれど、煩わしくて尋ね聞くこともしないのである。
騒がしくて、思うままにも言い尽くせないままになってしまったのを、飽き足りず宮〔八の宮〕はお思いになって、案内がなくてもお手紙は常にあるのだった。宮〔兵部卿宮〕も、
「やはり、〔姫君たちに〕お申し上げください。わざわざ懸想めいて振る舞いはしない。かえって心ときめくことにもなってしまうだろう。たいそう風流を好まれる親王なので、このような人だ、とお聞きになるのが、やはりとんでもない戯れのようである」
と、〔中の君を〕そそのかしなさる時々に、中の君だけがお返事申し上げる。姫君〔大君〕は、このようなことを、戯れにも遠ざけていらっしゃるお心の深さである。
いつとはなく心細いご様子に、春の所在なさは、いっそう暮らしがたく眺めていらっしゃる。年を重ねてますます優れていらっしゃるお姿や容貌が、いよいよいっそう勝り、理想的で美しいのも、かえって心苦しく、「少しでも欠けたところがおありだったら、惜しいという思いの方は薄かっただろうか」などと、明け暮れお思い乱れる。
姉君〔大君〕は二十五歳、中の君は二十三歳におなりだった。
宮〔八の宮〕は、重く慎まなければならない年であった。何かと心細くお思いになって、ご修行を常よりも怠りなくお続けになる。世に心を留めなさらないので、出発の準備を急ぐことばかりお思いになるので、涼しい道〔出家の道〕にも赴いてしまいそうなのを、ただこのお嬢様方のことに、たいそう気の毒で、限りないお心の強さではあるけれど、「必ず、今はと見捨てなさるお心は、乱れるだろう」と、お見申し上げる人も推し量り申し上げるのを、お思いの様子ではないにしても、並々でなく、そうしても人聞きが悪くならないように、許されそうな身分の人が、真心をもって後見申し上げよう、などと、思い寄り申し上げる者があれば、知らない顔で許そう、一人一人世に住み着いていらっしゃる縁があれば、それを見届ける方に慰めを置くべきなのに、それほど深い心で尋ね申し上げる人もいない。
たまに儚い便りに、好色めいたことを申し上げるような人は、まだ若々しい人の心の戯れに、物詣での中宿りや、行き来の途中のいい加減なことに、気取った様子を見せて、そうはいっても、こうして眺めていらっしゃる様子などを推し量り、侮りがちに振る舞うのは、癪に障って、投げやりの返事さえさせなさらない。三の宮〔匂宮〕だけが、やはり見ないではいられないとお思いのお心が深かった。そうなるべきご縁でいらしたのだろうか。
宰相中将〔薫〕は、その秋、中納言におなりになった。いっそう評判の芳しさが増していらっしゃる。世の営みに加えても、お思いになることが多い。どうしたことかと、鬱々と思い続けてきた年月よりも、心苦しくお過ごしになった昔の様子が思いやられるにつけ、罪が軽くなりなさるほどに、修行もしたいとお思いになる。あの老人〔八の宮〕を気の毒な方とお思い置きになって、目立った様子ではなく、あれこれと紛らわしながら、心を寄せてお訪ねになる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第46冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。