第46帖 椎本 / 第5場面
別れの歌
あらすじ・人物・読み方
宮は「われなくて草の庵は荒れぬとも」の歌を残して仏前に去り、薫が返歌する。薫は夜更けに帰京し、心細げな宮の様子を思い続ける。
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現代語で読む
「自然とこれほどまでに慣らし始めた残りは、世間から隠れ住む者同士に譲って申し上げよう」〔古歌の断片の引用〕と言って、宮〔八の宮〕は仏の御前に入ってしまわれた。
私がいなくなって草庵が荒れてしまっても、この一言〔の約束〕だけは枯れることはないと思う
このような対面も今回が最後だろうかと、何となく心細いのに耐えかねて、無骨なひが言が多くもなってしまったことよ」と言って、〔八の宮は〕お泣きになる。客人〔薫〕は、
どのような世まで〔この庵が〕続くであろうか、長き世の契りを結んだ草の庵は〔末長く残ってほしい〕
相撲の節会など、公事に紛れる時期が過ぎてから、参上いたしましょう」などと〔薫は八の宮に〕申し上げなさる。
こちら〔薫の宿所〕では、あの問わず語りの老女を呼び出して、残り多い物語などをさせなさる。入り方の月が、隈なく差し入って、透き影が艶やかなところに、姫君たち〔大君・中の君〕も奥まっておいでになる。世間並みの恋慕からではなく、心深く物語を穏やかに交わしながらおいでになるので、〔姫君たちは〕しかるべきお返事などを申し上げなさる。
「三の宮〔兵部卿宮〕が、とても〔中の君を〕慕っているものを」と、〔薫は〕心の中で思い出しながら、「自分の心ながら、やはり人とは違うことだ。あれほど〔八の宮が〕お心をもってお許しになったことが、それほど急がれないことよ。〔中の君と〕離れて、またあってはならないこととは、さすがに思えない。このように文や消息を交わし、折々の花や紅葉につけて、しみじみとした情も情愛も通わせるにつけ、好ましくおいでになる方〔中の君〕であるので、前世からの宿縁が違うもので、〔中の君が三の宮のものなど〕他の方面におなりになるのは」、さすがに残念に違いないと、〔自分のものにしたいと〕領有した気持ちがした。
まだ夜が深いうちに〔薫は都へ〕帰ってしまわれた。心細く名残惜しそうにお思いになっていた〔八の宮の〕ご様子を、思い出して申し上げながら、「騒がしい時期が過ぎたら参上しよう」と〔薫は〕お思いになる。兵部卿宮〔三の宮〕も、この秋の頃に紅葉見に〔宇治へ〕おいでになるだろうと、しかるべき機会をお考え巡らしていらっしゃる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第46冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。