ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第46帖 椎本 / 第6場面

山寺への出立と宮の死

あらすじ・人物・読み方

秋深く、八の宮は念仏三昧に入るため姫君たちに訓戒を残して山寺へ発つ。やがて病の知らせが届き、八月二十日、宮は亡くなる。

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現代語で読む

〔薫は八の宮へ〕お手紙を、絶えず差し上げなさる。〔姫君たちは薫が〕真剣に思っているだろうともお考えにならないので、煩わしくもなく、あっさりした様子で振る舞いながら、折々にお返事を交わしなさる。

秋が深まるにつれて、宮〔八の宮〕はひどく心細くお感じになったので、「例の静かな所で、念仏も心静かにしよう」とお思いになり、姫君たちにもそうすべきことをお伝えになる。

「世の常として、最後の別れは逃れられないもののようだが、〔残される者が〕思いを慰める手立てがあってこそ、悲しさを晴らせるものらしい。また〔姫君たちを〕託す人もなく、心細そうなご様子のお二人を見捨てて行くのはつらいことだ。しかし、その程度のことに妨げられて、長い夜の闇〔来世〕にまで迷うのは甲斐がない。一方で、〔私が〕お側で見る間だけでも捨てようとする世を、去った後のことは知るべきことではないが、私一人のことではなく、亡くなられた御方〔北の方〕への面目もあるので、軽々しい振る舞いをなさるな。確かな縁故でもないのに、人の言葉に流されて、この山里を離れてさまよいなさるな。ただ、このように人とは違う、運命の異なる身の上だとお考えになって、ここで一生を終えようと決心なさい。一途にそう思い定めれば、何でもなく過ぎた年月であった。まして女性は、その方面にひっそりと籠もって、目立って気の毒そうな、世間の非難を負わないのがよいだろう」

などとおっしゃる。〔姫君たちは〕どうにか自分の身の行く末までは思い乱されもせず、ただ「どうして、〔父宮に〕おくれて、世に片時でも生き長らえられよう」とお思いになるので、こうした心細いご様子の将来の計画に、言いようのない心の迷いばかりなのだ。心の中では〔世を〕捨てていらっしゃるのだろうが、明け暮れお側にいることに慣れていらっしゃるので、急にお別れになるのは、つらいお気持ちではないにしても、まことに恨めしいに違いないご様子であった。

明日、〔道場へ〕入ろうという日は、いつもと違い、あちらこちらを歩き回ってご覧になる。ひどく頼りなく、仮の宿りとして過ごしてこられたお住まいの様子を〔見て〕、「〔私が〕亡くなった後、どうして若い人がひっそり籠もって過ごせよう」と、涙ぐみながら念誦なさる様子は、とても清らかである。

年配の女房たちを呼び出して、「安心できるようにお仕えしなさい。何事も、もともと身軽で、世に名声があるはずもない身分の人は、晩年の衰えも普通のことで、目立たないだろう。このような身分になってしまったからには、人は何とも思わないだろうが、残念に思いながらさまようことになる運命が畏れ多く、気の毒なことが多いだろう。寂しく心細い世を送るのは、普通のことだ。生まれた家の身分相応に、決まりどおりに振る舞うのが、聞く耳にも、自分の気持ちにも、間違いなく感じられるだろう。賑やかに大勢の人に囲まれようと思っても、その心にかなわない世の中になるなら、決して軽々しく、よくない方面に振る舞わせ申し上げるな」などとおっしゃる。

まだ暁に〔道場へ〕お出かけになるという時も、こちら〔姫君たちの方〕にお渡りになって、「〔私が〕いなくなった間、心細く思い悩みなさるな。気分だけでも晴らして、遊びなどなさい。何事も思うようにはならない世の中なのだから。思い入りなさるな」などと、振り返りがちに出て行かれた。お二人〔大君と中の君〕は、ますます心細く物思いを続けられ、起きたり臥したりしながら語り合いながら、「一人一人でなかったら、どうして日々を過ごせよう」「今、将来も定まらない世の中で、もし別れるようなことがあったら」などと、泣いたり笑ったり、冗談も真面目な話も、同じ気持ちで慰め合って過ごしなさる。

あの〔宮が〕修行なさる三昧が、今日終わるだろうと、早く〔お帰りを〕とお待ち申し上げる夕暮れに、人が参って、「今朝から、具合が悪くて、参ることができません。風邪かといって、あれこれ治療しているうちに〔遅くなりました〕。それなのに、いつもよりお会いできないのが心もとないのですが」と申し上げてきた。〔姫君たちは〕胸が潰れる思いで、どうしたことかと嘆かれ、お召し物を綿を厚くして急がせなさって、〔宮へ〕差し上げたりなさる。二、三日〔具合が〕よくならない。「いかが、いかが」と、人を差し向けなさるが、「特に大げさなほどではありません。何となく苦しいのです。少しでもよくなれば、すぐに、念じて〔参りましょう〕」などと、言葉で申し上げなさる。阿闍梨がずっとお側にいてお仕えしていた。

「はかないご病気と見えますが、最後の旅〔死期〕でいらっしゃるのでしょう。姫君たちのことを、何を思い嘆くことがありましょう。人は皆、前世からの宿世というものがそれぞれ違うので、ご心配になるはずもございません」と、ますます〔世を〕離れるべきことを申し上げて知らせながら、「今さらお出かけなさいますな」と、お諌め申し上げていたのだった。

八月二十日の頃であった。全般に空の様子もますます〔秋らしく〕なる頃、姫君たちは朝夕、霧の晴れる間もなく、嘆きながら眺めなさる。有明の月がとても華やかに出て、水面も清く澄んでいるのを、あちらの蔀を上げさせて、眺め出していらっしゃると、鐘の声がかすかに響いて、「明けたようだ」と聞こえる頃に、人々が来て、

「昨夜のうちに、亡くなられました」と泣く泣く申し上げる。心にかけて、どうだろうかと絶えず思い申し上げていたが、実際に聞くと、驚きあきれて何も分からない気持ちになり、こういう時にはますます、涙もどこへ去ったのか、ただうつ伏して臥していらっしゃった。

悲しい出来事も、見る目の前で確かなことなら常のことだが、不確かさが加わって、嘆かれるのは道理である。しばらくの間でも、おくれてこの世に生きるべきものと思い慣れないお気持ちなので、どうして生き残れようと泣き沈みなさるが、限りある道なので、何の甲斐もない。

阿闍梨は、長年約束しておいたとおりに、後のご事〔葬送〕も万事お世話申し上げる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第46冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。