ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第46帖 椎本 / 第7場面

阿闍梨の諫めと薫の弔問

あらすじ・人物・読み方

阿闍梨は亡き宮との対面の願いを諌め、後のわざを執り行う。薫は弔問して後のことを託し、九月の宇治は時雨に暮れる。

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現代語で読む

「亡くなられたご様子やお顔をせめて、今一度拝見したい」と思い、おっしゃるが、「今さら、どうしてふさわしいことがありましょうか。日頃も、再びお会いになることはないと申し上げて知らせたので、今はなおさら、お互いに心を留めなさるべきでない心遣いを、身につけなさるべきです」とばかり申し上げる。〔宮が〕いらっしゃったご様子を聞くにつけても、阿闍梨のあまりに賢しらな聖の心を、憎く辛いとお思いになった。

入道〔八の宮〕のご本意は昔から深かったが、このように託す人のない姫君たちを見捨てがたいので、生きている限り明け暮れ避けずにお側で見ることを、この上なく心細い世の慰めにも思い、離れがたく過ごしてこられたが、限りある道では、先立つことも慕うお心も、叶わないことであった。

中納言殿〔薫〕は、お聞きになって、ひどくあっけなく残念で、今一度、心ゆっくりと申し上げるべきことが多く残っている気がして、全般に世の様子を思い続けて、ひどく泣かれる。「再び会うことは難しいだろうか」などと〔宮が〕おっしゃったのを、なお平生のお心でも、朝夕の隔てを知らない世のはかなさを、人より特に思っていらっしゃったので、耳慣れて、昨日今日のこととは思わなかったのを、繰り返し飽きることなく悲しく思いなさる。

阿闍梨のもとにも、姫君たちの弔いの言葉も、細やかに申し上げなさる。このような弔いなど、ほかに訪れる人もいないご様子であるのは、何も分からないお気持ちのうちにも、長年の〔薫の〕お心遣いがしみじみありがたかったことなどを、思い知りなさる。

「世間並みの程度の別れでさえ、当座は、また類のないようにばかり、誰もが思い惑うもののようだが、慰める手立てのなさそうなお身の上のお二人で、どのようなお気持ちでいらっしゃるだろう」と思いやりながら、後のご法事など、すべきことを推し量って、阿闍梨にも弔いなさる。こちら〔姫君たち〕にも、老女たちに託して、ご読経などのことも配慮なさる。

明けない夜のような気持ちのまま、九月にもなった。野山の景色が、ますます袖の時雨〔涙〕を誘いがちに、ともすれば競って落ちる木の葉の音も、水の響きも、涙の滝も、同じもののように暮れて途方に暮れ、「このままでは、どうして、限りあるご命も、しばらく延ばせよう」と、仕える人々は、心細く、ひどく慰め申し上げながら〔過ごす〕。

こちらにも念仏の僧が控えていて、〔宮が〕いらっしゃった方は、仏を形見として拝みながら、時々参ってお仕えした人々が、ご忌に籠もっている間は、しみじみと修行して過ごす。

兵部卿宮からも、たびたび弔い申し上げなさる。そのようなお返事など、申し上げる気持ちにもなりなさらない。はっきりしないので、「中納言にはこのようでもないのに、私をやはり思い捨てていらっしゃるようだ」と、恨めしくお思いになる。紅葉の盛りに、手紙など作らせようとして、出かけていらっしゃったのを、このように、この辺りのご逍遥には都合の悪い頃なので、思いとどまって残念である。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第46冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。