第47帖 総角 / 第25場面
葬送と形見の色
あらすじ・人物・読み方
大君は煙となり、薫は宇治に忌籠もる。七日ごとの法事が営まれ、薫は形見の色に涙して歌を詠む。
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現代語で読む
中納言の君〔薫〕は、そうはいってもまさかこんなことにはなるまい、夢かとお思いになって、大殿油を近くにかかげて拝見なさると、お隠しになっている顔も、まるで寝ていらっしゃるようで、変わったところもなく、かわいらしげに臥せっていらっしゃるのを、「このままで、虫の脱け殻のようにでも見続けることができるなら」と、思い惑われる。
ご臨終の作法をする時に、お髪をかきやると、さっと匂うのが、まるで生きていた時の匂いそのままで、懐かしく香ばしいのも、
「世に比類なく、どうしてこの人を、少しでも普通の人であったと思い諦められようか。本当に世の中を思い捨てる道しるべならば、恐ろしそうな嫌なことで、悲しさも冷めてしまいそうなところだけでも見つけさせてください」
と仏にお祈りになるが、ますます思いを止める方途がなくなるばかりなので、どうしようもなくて、「ひと思いにせめて煙にしてしまおう」とお思いになって、あれこれ例の〔葬送の〕作法をするのが、何とも言いようのないことであった。
宙を歩くようにふらふらとして、最後〔荼毘〕の様子さえ頼りなさそうで、煙も多くはお立ちにならなかったのもあっけなかったことと、茫然としてお帰りになった。
御忌中に籠もっている人の数が多くて、心細さは少し紛れそうだが、中の宮〔中の君〕は、人の目や思惑も恥ずかしい身の情けなさを悲観なさって、また亡くなった人のようにお見えになる。
宮〔匂宮〕からもご弔問をたいそう頻繁に差し上げなさる。思いがけずつくづくとお慕い申し上げていらっしゃったご様子も、〔大君の気持ちが〕お直りにならずに亡くなってしまったことをお思いになると、たいそうつらいご縁の方である。
中納言〔薫〕は、このように世がたいそうつらく思われる機会に、出家の本意を遂げようとお思いになるが、三条の宮〔女三の宮〕がお悲しみになることに憚り、この君〔中の君〕の御事のお気の毒さに思い乱れて、
「あの〔大君〕がおっしゃったようにして、形見としてでも〔中の君と〕結婚すべきであったものを。心の底では、身を分けた姉妹でいらしても、気を移せるようには思えなかったが、このようにお悲しみ申し上げさせるよりは、いっそ語り合って、尽きない慰めとしてお世話申し上げ通すべきであったのに」
などとお思いになる。
少しも京へお出にならず、ふっつりと、慰めようもなく籠もっておいでになるのを、世の人も、並々ならず悲しんでいらっしゃることと見聞きして、帝をはじめ申し上げて、ご弔問が多かった。
とりとめもなく幾日も過ぎてゆく。七日ごとの法事をたいそう尊くおさせになり、心を込めて供養なさるが、決まりがあるので、お召し物の色が変わらないのを、あの御方〔大君〕を特に慕っていた人びとが、たいそう黒く着替えているのを、ちらっとご覧になるにつけても、
紅に落ちる涙も甲斐がないのは、形見の喪服の色を染めないからだ
許し色の氷が解けないかと見える〔衣〕を、ますます濡らし加えながら物思いに沈んでいらっしゃるお姿は、たいそう艶っぽく清らかである。人びとが覗きながら拝見して、
「亡くなってしまった御方のことは仕方ないとして、この殿〔薫〕がこのようにお親しみ申し上げて、これからは他人とお思い申し上げるのは、惜しく残念なことだわ」
「思いがけないご宿世でいらっしゃったわ。これほど深いお心を、どちらもお添いになれなかったとは」
と泣き合っていた。
この御方〔薫〕には、
「亡き大君の御形見として、今はどんなことでもお聞きし、お引き受けしようと思っております。疎遠にお思いになって隔てなさらないでください」
と〔薫が〕申し上げなさるが、〔中の君は〕「何もかもつらい身の上です」と、ただ慎み深く遠慮して、まだ対面して何か申し上げることもなさらない。
「この君〔匂宮〕は、際立った面では、もう少し子供らしく、気高くていらっしゃる一方で、親しみやすく匂い立つような心ばえでは、〔私に〕劣っていらっしゃるのだった」
と、折に触れて〔薫は〕思い出される。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第47冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。