ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第47帖 総角 / 第24場面

大君の臨終

あらすじ・人物・読み方

大君は出家を願うが果たせず、豊明の夜を経て、薫の見守るなかで静かに息を引き取る。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

〔薫は〕宮〔八の宮〕が夢に現れた様子をお考え合わせになると、「このように気の毒なご様子の方々を、天を翔りながらどのようにご覧になっているだろう」と推し量られて、〔宮が〕籠もっていらっしゃったお寺にも、御誦経をさせなさる。所々へ祈りの使者をお出しになり、公にも私にもお暇の旨を申し上げて、祭りや祓い、あらゆることに行き届かせなさるが、何かの罪によるご病気でもなかったので、何の効験も見えない。

〔大君〕ご自身も、治りたいと思って仏をお念じになればよいのだが、〔そうではないので〕、

「やはり、このような機会に何とかして死んでしまいたい。この君〔中の君〕がこうして付き添って、残り少なくなってしまった今は、もう他人として離れるすべもない。そうかといって、このように並々ならず見える〔薫の〕愛情が、思ったほどでないと、自分も相手も思われるのは、安心できずつらいことだろう。もし寿命が無理に延びたら、病気にかこつけて、姿〔髪〕をも変えてしまおう。そうしてこそ、末長い心を互いに見届けることができるのだ」

と思い決めていらっしゃって、

「どうあってもこうあっても、何とかこの思い〔出家〕を遂げよう」とお思いになるのを、そこまで賢ぶったことはおっしゃることができず、中の宮〔中の君〕に、

「気分がますます頼りなく思われるので、受戒は、たいそう効験があって命が延びることだと聞きました。そのように阿闍梨におっしゃってください」

と申し上げなさると、皆が泣き騒いで、

「とんでもない御ことです。これほどお心を痛めていらっしゃる中納言殿〔薫〕も、どんなにがっかりなさることでしょう」

と、ふさわしくないことと思って、頼りにする人〔薫〕にも申し次がないので、〔大君は〕残念にお思いになる。

〔薫が〕このように籠もっていらっしゃったので、聞き伝え聞き伝えて、お見舞いにわざわざ来る人もいる。並々ならずお思いになっていることだと拝見するので、殿上人や親しい家司などは、それぞれあらゆるご祈祷をさせ、心配申し上げる。

豊明の節会は今日だと、〔大君は〕京を思いやりなさる。風がひどく吹いて、雪の降る様子があわただしく荒れ狂う。「都ではこれほどではあるまい」と、自ら招いたこととはいえ心細く、「疎遠なまま終わってしまうのだろうか」と思う宿縁はつらいけれど、恨むこともできない。優しくかわいらしい〔薫の〕おもてなしを、ただ少しの間でも元どおりにして、「思っていたことを話したい」と思い続けながら眺めていらっしゃる。光もなく暮れてしまった。

すっかり曇って日の光も見えない奥山で、心を暗くする今日この頃であることよ

ただ、こうして〔薫が〕おいでになるのを頼みに、皆が思い申し上げていた。いつものように近い方に〔薫が〕座っていらっしゃると、御几帳などを風があらわに吹くので、中の宮〔中の君〕は奥へお入りになる。見苦しそうな人びとも恥ずかしがって隠れたところで、〔薫は〕たいそう近くに寄って、

「ご様子はいかがですか。心のありたけを尽くして祈り申し上げる甲斐もなく、お声さえ聞かなくなってしまったので、たいそう情けないことです。後に残して逝かれたら、ひどくつらいでしょう」

と、泣く泣く申し上げなさる。〔大君は〕意識もはっきりしなくなった様子だが、顔はたいそうよく隠していらっしゃった。

「具合のよい時があったら、申し上げたいこともございますが、ただ消え入るようにばかりなってゆくのは、心残りなことです」

と、たいそう悲しいと思っていらっしゃる様子なので、〔薫は〕ますます堪えきれなくて、不吉にも、このように心細そうに思っているとは見られまいと隠していらっしゃるが、泣き声まで上げてしまわれる。

「どのような宿縁で、この上なくお慕い申し上げながら、つらいことが多くてお別れ申し上げるのでしょうか。少し嫌な様子でもお見せになったら、思いを冷ますきっかけにもしましょうに」

と〔薫が〕見守っているが、ますますいとしく惜しく、美しいご様子ばかりが見える。

腕などもたいそう細くなって、影のように弱々しいが、肌の色艶も変わらず、白く美しそうになよなよとして、白い御衣類の柔らかな上に衾を押しやって、中に身のない雛人形を臥せたような気がして、お髪はたいして多くもなく打ちやられているのが、枕から落ちた際がつやつやと素晴らしく美しいのも、「どのようにおなりになろうとするのか」と、生きていかれそうにもなく見えるのが、惜しいことは類がない。

幾月も長く患って、身づくろいもしていない様子が、気を許そうともせず恥ずかしそうで、この上なく飾りたてる人よりもずっとまさって、細かに見ていると、〔薫は〕魂も静まる方途がない。

「とうとう捨てて逝っておしまいになったら、この世に少しも生きている気がしません。寿命がもし定まっていて生き永らえたとしても、深い山に分け入るつもりです。ただ、たいそうお気の毒で、お残りになる方〔中の君〕の御事を心配いたします」

と、答えさせていただこうと思って、あの方〔中の君〕の御事に触れなさると、〔大君は〕顔を隠していらっしゃったお袖を少し引き直して、

「このように、はかなかったものを、思いやりのないようにお思いなさったのも甲斐がないので、このお残りになる人〔中の君〕を、同じようにお思い申し上げてくださいと、それとなく申し上げたのに、そうしてくださったら安心できたのにと、この点だけが恨めしいことで、執着が残りそうに思われます」

とおっしゃるので、

「このようにひどく物思いをする身の上なのでしょうか。何としても、他のことにこの世で執着することがございませんでしたので、ご意向にお従い申し上げずになってしまいました。今になって、悔しくお気の毒にも思われます。けれども、ご心配なさいますな」

などと慰めて、〔大君が〕たいそう苦しそうでいらっしゃるので、修法の阿闍梨たちを召し入れさせて、効験のある限りのことをして、加持させなさる。〔薫〕ご自身も仏にお祈りになること、この上ない。

「世の中を特に厭い離れなさいとお勧めになる仏などが、どうしてこのようにひどい目にお遭わせになるのだろうか。見ている前で物が隠れてゆくようにしてお亡くなりになったのは、何と悲しいことだろう」

引き止める方法もなく、足摺りもしそうで、人が愚かだと見ることも気にならない。ご臨終と拝しなさって、中の宮〔中の君〕が後れまいと思い惑っていらっしゃる様子ももっともなことである。〔薫が〕正気もないようにお見えになるのを、いつもの利口ぶった女房たちが、「今は、たいそう不吉なこと」と言って、引き離し申し上げる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第47冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。