第47帖 総角 / 第5場面
夜明けの贈答
あらすじ・人物・読み方
夜明け、薫と大君は朝の景物に寄せて歌を交わす。薫は名残を惜しみながら帰京する。
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虚しく明け方になってしまった。お供の人々が起きて声作りをし、馬どもの嘶く音も、旅の宿りの有様など人の語るのを、思いやられて、面白く思われる。光が見えた方の障子を押し開けなさって、空のしみじみとしたのを共々にご覧になる。女〔大君〕も少し居ざり出ておられるのに、大したこともない軒の近さであるので、忍草の露も次第に光が見えていく。互いにたいそう艶やかな様子や、容貌どもを、
「何とはなくて、ただこのように月をも花をも、同じ心で愛で遊び、儚い世の有様を話し合わせながら、過ごしたいものです」
と、たいそう懐かしい様子で語らい申し上げると、次第に恐ろしさも慰んで、
「このようにみじめでなく、物で隔ててなどと申し上げるなら、本当に心の隔ては決してないでしょう」
とお答えになる。
明るくなってゆき、群鳥の立ち迷う羽風が近く聞こえる。夜深い朝の鐘の音が微かに響く。「今は、たいそう見苦しいので」と、たいそうどうにもなく恥ずかしそうに思っておられた。
「ことあり顔に朝露を分けて行くことはありますまい。また、人がどう推し量り申し上げるでしょうか。いつものように穏やかにお振る舞いになって、ただ世に違えたこととして、今から後も、ただこのようにさせなさってください。決してご心配な心はないと思ってください。これほど強く思う心のほども、しみじみとお分かりいただけないことこそ甲斐がありません」
と言って、〔薫は〕お帰りになる様子もない。あきれたことに、〔このままでは〕体裁の悪いことになろうとして、
「今から後は、なんといっても、〔あなたが〕おもてなしなさる通りにいたしましょう。今朝は、どうかまた私の申し上げる通りにしてください」
と言って、〔薫は〕どうしようもないとお思いになったので、
「ああ、つらいことだ。夜明けの別れとは。まだ経験したことのないことで、本当に、戸惑ってしまいそうなのに」
と嘆いてばかりいる。鶏も、どの方角にいるのか、かすかに鳴く声を聞くと、京が思い出される。
山里のしみじみとした趣が感じられるさまざまな声に、いろいろな鳥の声が集まった夜明けであることよ
女君〔大君〕は、
鳥の声も聞こえない山里だと思っていたのに、世間のつらいことが訪ねて来たことよ
〔大君は薫を〕障子の口までお送り申し上げなさり、〔薫は〕昨夜入った戸口から出て行き、〔大君は〕お休みになったが、眠れない。〔別れの〕名残が恋しくて、「こんなに思うのだったら、この数か月も今まで心がのんびりしていられただろうか」などと、〔京へ〕帰ることも億劫にお思いになる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第47冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。