第47帖 総角 / 第6場面
喪の明けるころ
あらすじ・人物・読み方
大君は薫への思いを断ち、中の君を表立てようと決意する。喪服が脱げ、姉妹は薄色の姿を見せる。
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現代語で読む
姫宮〔大君〕は、人々が何と思うだろうかと気が引けて、すぐにはお休みにもなれず、「頼りになる人もなく世を過ごす身のつらさを、仕えている人々までも、よくないことを何やかやと、次々について言い出すので、望まないことが起こってしまいそうな世の中らしい」とお考えめぐらすと、
「この方〔薫〕のご様子やお人柄は、疎んじるべきものではなく、亡き父宮も、そのようなお心づかいがあればと、折々におっしゃりお考えだったようだが、私自身は、やはりこのまま過ごしてしまおう。私より姿かたちも盛りで、惜しむべき中の宮〔中の君〕を、人並みに落ち着かせられたら嬉しいだろう。〔中の君を〕他人事としてなら、心の及ぶ限り思いやって後見しよう。私自身の身の処し方は、また誰が見て世話してくれるだろうか。
この方のお姿が、並大抵で紛れてしまうほどだったら、このように見慣れた長年の甲斐があって、心がゆるむこともあっただろうに、気恥ずかしく近づきがたい様子が、かえってたいそう気が引けるので、私の一生はこうして過ごし終えてしまおう」
と考え続けて、声を上げて泣きがちに夜を明かしなさったが、〔薫の〕名残がたいそうつらいので、中の宮がお休みになっている奥の方に添ってお休みになる。
いつもと違い、人々がひそひそ話す様子も不思議だと、この宮〔中の君〕は思いながら寝ていなさったところ、〔大君が〕こうして来なさったので、嬉しくて、〔大君に〕お召し物を引いて着せ申し上げなさると、〔薫の〕移り香が紛れようもなく漂ってくる感じがするので、宿直の人々が取り扱っていたことと結びつけられて、「本当のことらしい」と〔大君が〕気の毒で、〔中の君は〕寝たふりをして何もおっしゃらない。
客人〔薫〕は、弁のおもとを呼び出しなさって、細かに語り置き、ご挨拶をきちんと申し置いてお出かけになった。「〔昨夜〕総角を戯れに取り上げたのも、心あって、尋ほどの隔て越しでも対面したのだと、この君〔薫〕もお思いだろうか」と、〔大君は〕たいそう恥ずかしいので、気分が悪いと言って、〔一日〕苦しんで暮らしなさった。人々は、
「日もすっかり暮れてしまいました。しっかりと、ちょっとしたことさえお世話申し上げる人もいないのに、折の悪いご病気ですこと」
と申し上げる。中の宮は、組み紐などをし終えなさって、
「心葉などは、とても思いつきません」
と、しきりに申し上げなさると、〔大君は〕暗くなったのに紛れて起きなさって、一緒に結んだりなどなさる。中納言殿〔薫〕からお手紙があるが、
「今朝からたいそう苦しくて」
と言って、人伝てに申し上げなさる。
「それにしても、見苦しく、幼いふるまいをなさる」
と、人々がつぶやいて申し上げる。
喪服の期間などが終わって、〔お召し物を〕脱ぎ捨てなさったことにつけても、片時も〔父宮に〕遅れて残り申し上げるものとは思わなかったのに、はかなく過ぎてしまった月日の長さをお思いになると、たいそう思いがけない身のつらさと、泣き沈んでいなさるご様子が、たいそう痛々しい。
この数か月、黒く染め慣らしてきたお姿が、薄い鈍色になって、たいそう優美で、中の宮は、本当にたいそう盛りで、美しい匂いがまさっていなさる。〔大君が中の君の〕お髪などを整え繕わせて拝見なさると、世の物思いを忘れる心地がして立派なので、人知れず、「〔近くにいて私に〕劣っているとは思わないだろうか」と、頼もしく嬉しくて、今はもう見守りを譲る人もいないので、親心で大切にお世話して拝見なさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第47冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。