第47帖 総角 / 第7場面
薫の再訪とすれ違い
あらすじ・人物・読み方
長月、薫が再び宇治を訪れるが、大君は対面を避ける。女房たちは二人を結ばせようと図る。
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現代語で読む
あの人〔薫〕は、遠慮申し上げていた藤の衣もお改めになっただろう長月にも、心が落ち着かず、またおいでになった。「いつものように申し上げよう」と、またご連絡があると、〔大君は〕心を誤って、煩わしく思われるので、あれこれと申し逃れて対面なさらない。
「思いがけなくつれないお心ですね。人々もどう思うことでしょう」
と、お手紙で申し上げなさった。
「今はもうと〔喪服を〕脱ぎました時の心の迷いで、かえって沈み込んでおりまして、申し上げられません」
とある。
〔薫は〕恨めしく思いあぐねて、いつもの人〔弁〕を呼んで、万事をおっしゃる。世にも知らない心細さの慰めには、この君〔薫〕だけを頼り申し上げてきた人々なので、〔薫が人々の〕思いにかなってくださり、世間並みの住まいに移りなどなさるのを、たいそうめでたいことと言い合わせて、「ただ〔薫を〕お入れ申し上げよう」と、みな相談し合った。
姫宮〔大君〕は、その様子を深くはご存じないが、「このように特別に人並みに親しくなさる様子なのに、打ち解けて、不安な気持ちもあるのだろうか。昔物語にも、自分から進んで、ということもこのようなこともあるようだ。打ち解けるはずのない人の心にこそあるようだ」とお思い寄りになって、
「せめて恨みを深く言えば、この君〔中の君〕を〔薫へ〕押し出そう。〔相手が〕劣った様子であっても、いったん見初めたら、浅はかには扱わないはずの心のようであるのに、まして、ほのかにでも見初めたら、慰めになるだろう。言葉に出してしまったら、どうして、ふとそのようなことを待ち受ける人がいるだろうか。本意ではないと、受け入れる様子のないのは、一方では人々がどう思うかを、やたらに軽い方に取られるのではないかなどと、遠慮なさっているのだろう」
とお考え構えるのを、「様子だけでもお知らせくださらなければ、罪を得るかもしれません」と、〔弁は〕自分の罪にして気の毒なので、万事を打ち明けて語って、
「昔の〔父宮の〕ご意向も、世の中をこのように心細く過ごし終えるとしても、かえって人笑いになるように、軽々しい心を使うな、などとおっしゃり置いたのを、〔宮が〕いらっしゃった世の絆によって、修行のお心を乱した罪でさえ大変だったでしょうに、今となっては、それほどおっしゃった一言さえ違えまい、と思っておりますので、心細いなどとも特に思わないのに、この人々が、不思議に心の頑ななものとして憎んでいるらしいのは、たいそう理不尽です。
本当に、そのような様子でお過ごしになるのも、日々が過ぎるにつれても、おことだけを、惜しく痛ましく悲しいものとお思い申し上げるのに、君〔薫〕だけでも世間並みにおもてなしくださって、このような身の様子も体面が立ち、慰むほどに拝見させていただきたいものです」
と〔弁が大君に〕申し上げなさったら、どうお思いになるかと、心配で、
「一人の方〔大君〕だけが、そのまま世を終えなさいとは、〔父宮も〕おっしゃったでしょうか。しっかりしていない身の後見の心配は、〔二人分に〕数が加わったように、お思いだったようです。心細い慰めには、このように朝夕に拝見するより、どのような方法があるでしょうか」
と、〔大君が〕少し恨めしくお思いになったので、本当にそうだと、気の毒で、
「やはり、あれこれと、ひどく偏屈な者と言い思っているらしいことにつけて、思い乱れておりますよ」
と、言いさしなさった。
日が暮れていくのに、客人〔薫〕はお帰りにならない。姫宮〔大君〕は、たいそう厄介だと思う。弁が参って、ご連絡の数々を伝え申し上げ、〔薫が〕恨みなさるのももっともだという旨を、つぶさに申し上げると、〔大君は〕返事もなさらず、嘆いて、
「どのように処すべき身なのでしょうか。一人の方〔父宮〕がいらっしゃったなら、ともかくも、ふさわしい人に扱われ申し上げて、宿命という面では、身を自分の心のままにできない世の中なので、みな例のこととして、人笑いになる咎も隠せるでしょう。いる限りの人々は年を重ね、賢しげにそれぞれ思いながら、心を慰めて、似つかわしいことを言って知らせますが、これは、しっかりしたことでしょうか。人並みでない心の持ち主たちが、ただ一方的に言うだけです」
と〔弁が〕拝見すると、〔大君を〕動かそうとするばかりに互いに申し合うのも、たいそうつらく疎ましくて、〔大君は〕心を動かされなさらない。同じ心で何事も語り申し上げなさる中の宮は、このような筋には、もう少し理解もなくおっとりしていて、何とも聞き入れなさらないので、「不思議な身の上だなあ」と、ただ奥の方に向いておいでになると、
「いつもの色のお召し物どもを差し上げて取り替えよ」
などと、勧め申し上げながら、みな、そうする心構えらしい様子を、あきれて、「本当に、何の差し支えがあるだろうか。まもなく、このようなお住まいの甲斐のない、山梨の花だぞ」と、逃れる方法がなかった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第47冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。